前橋バイオマス発電所控訴審で住民側敗訴、上告へ

前橋バイオマス発電所事業への補助金をめぐる住民訴訟で東京高裁(白井幸夫裁判長)は6月22日、住民側の訴えをいずれも棄却する控訴審判決を下した。裁判は、燃料となる間伐材の放射能汚染の懸念などから地域住民らが群馬県を相手どり2016年に提訴。建設の前に不当に基準を変更して環境影響評価(環境アセスメント)を免れさせたとして、事業補助金4億8千万円の返還を求めた裁判だ。住民側は上告を予定している。(堀理雄)

前橋バイオマス発電所(最大出力6750キロワット)は、東京電力のグループ会社である関電工とトーセン(栃木県矢板市)が出資して建設し、2018年3月営業運転を開始。年間8万トンの木材を使用している。

周辺住民らでつくる「赤城山の自然と環境を守る会」(横川忠重代表)は、燃料となる木質チップを圧搾する際の排水や、発電で生じる排出ガス、燃焼後の灰などから、福島第一原子力発電所事故に由来する放射能汚染が拡散する恐れがあるなどとして事業に反対してきた。

裁判の争点の一つは、発電所建設の際に事業者に義務付けられている環境アセスメントの対象事業を規定する基準を、県が緩和したことが適正かどうかだ。

排出ガスが毎時4万立方メートル(0℃、1気圧時換算)を超える発電所は環境アセスメントの対象事業となっているが、県は木に含まれる水分(含水率)を差し引いて排出ガス量を計算するよう条例を変更。同発電所事業は対象外となり、環境アセスは実施されなかった。

2019年10月に出された前橋地裁の第一審判決によれば、含水率を考慮した排ガス基準の運用は、全国の他の自治体では存在しないものの、毎時4万立方メートルという群馬県の基準は厳しいものであり、基準変更による環境アセスの未実施に違法性はないとした。

これに対し住民側は控訴理由書のなかで、「埼玉県、鳥取県、京都市、名古屋市、北九州市、福岡市、牧方市なども同基準」と指摘。「群馬県の基準は厳しいと装う印象操作は、関電工を環境アセスの実施義務から救うための不正行為」と反論していた。

原告の小川賢・市民オンブズマン群馬代表は「毎時4万立方メートルという基準は、大気汚染防止法のばいじん排出基準に基づくもの。県は法律や条例の趣旨をゆがめることなく運用してほしい」と強調する。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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