書評『食・農・環境とSDGs』(古沢広祐著)

本書は、冷徹なまでに社会経済構造や問題を分析、社会経済システムの転換を正面から問う骨太で、それでいて緻密な議論を展開する。その副題は「持続可能な社会のトータルビジョン」なのだが、「脱成長・持続可能な共存・共生社会へのトータルビジョン」の方が、主張するビジョンがよりはっきりするのではないか。

本書の上梓は筆者の本務校を定年により退職した時期と重なる。社会経済システムの転換の模索は、システム構造を遥かに越え人間の存在という哲学的探究にまで昇華する。筆者の研究者・NGO活動者として脱成長・共存・共生への探求の深み、極み、そして凄み。読者を議論に引き込む。集大成の書としてのその名は体を成す。今ある経済社会システムを自明の前提として開発目標の達成に向け日々実践に取組んでいる方々、特にビジネスパーソンは一旦手を休め、腰を据えて読んでもらいたい一冊である。

甲賀 聖士(昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員)
1990年明治学院大学国際学部卒。青山学院大学大学院国際政治経済学研究科、早稲田大学大学院社会科学研究科に学ぶ。国際政治学修士。専門は平和研究・人間の安全保障研究。企業やそこで働く人々、女性もグローバル社会の重要なアクターと捉え、その行動が平和や社会的価値の創出に貢献する可能性を探る。主な論文に「平和の探求―平和の発展と浸透の視点から」、「性役割意識と社会貢献意識を結ぶ『媒介意識』の仮説検証 ―就労前の女子大学生における2つの意識の関係性分析―」等。日系企業で事業管理、安全保障輸出管理、J-SOX、CSR等にも従事。

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