具体的にどんなローカルベンチャーが生まれたか、事例を紹介しよう。
・猪田敦子さんー岡山県・西粟倉村で、大学病院や助産院で積んだ経験を生かし、出張型助産所「こじか助産所」をオープン。妊娠中から産後まで地域だからこそできる様々なケアを提供。村のお母さんたちから絶大な信頼を寄せられる村自慢の助産師さん。
・成田智哉さんー北海道・厚真町で、大手自動車メーカー勤務の経験から会社を設立。地域の交通問題の解決を目指すとともに、住民が移動時間中のコミュニケーション創造でコミュニティと出あうきっかけを提供するモビリティーサービスの開発を目指している。
・郷原剛志さん、村上尚実さんー島根県・雲南市で、郷原さんは住民自治組織の事務局長、村上さんはNPOに勤務していたが、住民による地域づくりを促進するため、必要な資金を市民から集めて、うんなんコミュニティ財団を設立、まちに必要な活動を支援。
このほかにも、梶原麻由さん(熊本県・南小国町で観光ウェブメディアを立ち上げ)、甲祐輔さん(フィレンツェから故郷の石川県・七尾市に戻り、テーラーとしてオーダーメイドスーツの拠点をつくる)、渋谷肇さん(岡山県・西粟倉村で駆除される鹿の皮から革製品を製造)、杉本恭佑さん(宮崎県・日南市の油津商店街に24時間営業の無人本屋さんをオープン)など多くのチェンジメーカーが育っている。皆、地域に溶け込み、驚くほどいい顔で仕事をしている。人間っていいものだと素直に思わせてくれる。
この事業は着実に成果を上げている。2021年度以降についてETIC.の山内幸治事業統括ディレクターは「それぞれの地域での高度化、深化と他地域への広がりに向け、引き続き広域での自治体連携によるローカルベンチャー事業に取り組んでいきたい」と意欲を見せる。
日本は政治も経済も停滞し、多くの課題を抱えている。現在、コロナに苦しんでいるが、過去にも大きな被害を受けた大災害があった。東日本大震災である。あの時、いち早く現地に支援に駆けつけたのが実はETIC.とかかわりのある社会起業家だった。
そして今もその支援は続いている。あの地震と津波は多くの犠牲者を生んだ。しかし、私たちはすべてを失ったわけではない。残った人たちの頑張り、支援に駆けつけた人たちが見せてくれた「人間の善」への信頼は救いであり、未来に向けての光だった。
このローカルベンチャー事業にはその経験、思いが込められているような気がする。ローカルベンチャーに期待したい。