なぜナイキは広告を通じて人権問題を訴えるのか

キャパニックが2016年にはじめた「膝つき抗議」は当初、大きな物議を醸した。NFLは彼の態度に注意と警告を繰り返したが、キャパニックは動じなかった。

翌年、キャパニックは自由契約となった。人気チームのスーパースターだったにもかかわらず、彼に声をかけるチームはなかった(キャパニックは各チームが不当に共謀していると提訴し、昨年2019年に和解が成立した)。


この間も、キャパニックのジャージは売れ続けた。2017年よりビックデータを活用したマーケティング分析を行っているナイキは、そのデジタル戦略をもとにキャパニックの起用を決めた。

この時、ナイキは保守層からの強い反発を受けた。一部では不買運動も起き、株価は一時3.9%安まで値を下げたが、それは一時的なものだった。ナイキのメインターゲットである若者は、キャパニックを支持していた。

事実上、NFLを追い出されたキャパニックだったが、彼に同調する選手は増え続けた。そして今年2020年、キャパニックの膝つき抗議ポーズは、BLMの象徴となった。

今年6月にビジネス・インサイダーとソーシャルネットワーキングアプリ「Youbo」が、米国在住の13歳から25歳を対象に行った調査によると、回答者の90%近くがBLM運動を支持している。

ワールドエコノミックフォーラムは2020年6月24日付けの記事で「人種の多様性、包括性、公平性は、人道的に正しいだけではなく、ビジネスにとって有益だ」と述べている。

ナイキに続くかのように、多くの企業がBLMへの具体的な支援を始めた。ペプシは今年、むこう5年で4億ドルを黒人コミュニティの支援に充てると公表した。電子決済大手、ペイパルは5億3000万円を人種差別撤廃に投資する。アップルは1億ドルを投入し、人種差別問題に取り組む団体の設立を宣言した。今や米国では、BLMへの支持なくして若者市場での成功は望めなくなった。

midoriyamanaka

山中 緑・米ポートランド

北海道オホーツク育ち。ローカル新聞社を経営する両親のもと、地域の産業や街づくりを身近に感じて育つ。海は冬になると氷が流れてくるものだと思っていた。札幌の短大を卒業後、タウン誌の編集部勤務を経て1999年に単身渡米。アートセンターカレッジオブデザインにてコミュニケーションデザインを学び、学士号取得。デザインをベースとしたコミュニケーションの仕事に従事。2007年に独立。2013年に帰国するも、2018年に不登校の娘と二人で再び渡米。シングルマザー。執筆記事一覧

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