日本で新型コロナウイルス感染者が急増し、2回目の緊急事態宣言を検討する中、ベトナム(人口9500万人)では累計の感染者数1494人、死者35人と、コロナ制圧で特筆すべき結果を出した(1月4日現在)。2020年の国内総生産(GDP)成長率も前年比2.91%とプラス成長を達成した。ベトナムでは何が奏功したのか。
桂良太郎・日越大学(Vietnam-Japan University)客員研究員(元立命館大学教授)は「コロナ禍のなかで、ベトナム人の底力を感じた。個人の意思よりも家族を尊重する家族観がベースにあり、危機管理能力が高い」と驚きを隠さない。
「家族、地域といった集団の力で防疫を進め、社会を守ろうとしている。『サステナビリティ』(持続可能性)への転換が求められるなか、技術的なイノベーションだけに偏らず、人間の集団力を生かす社会づくりの重要性を、コロナ禍のベトナムから学んだ」(桂氏)
世界的にコロナが感染拡大し始めた2020年2月初旬、ベトナム外務省は、過去14日以内に中国に滞在または渡航歴のある外国人のベトナム入国を一時的に認めないとを発表した。3月31日には、「首相指示第16号」を発出し、全国規模の社会隔離を実施した。
「首相指示第16号」では、全ての国民に自宅待機を呼び掛け、食料や薬品の調達、必需サービスを生産・提供する企業・工場で働く場合など、本当に必要な場合に限って外出するように求めた。交通運輸省、各省市の人民委員会は、原則として公共交通手段による旅客運搬も停止した。
こうした措置が奏功し、4月17日以降は新規感染者数ゼロが続いた。制限措置の緩和に伴い、5月中旬と7月下旬に一時的に感染者数が増加したものの、新規感染者数の平均は1日6人にとどまり、現在では市中感染ゼロが30日以上続いている。