なぜ多様性が重要か、「コロナ差別」で気付く

コロナ禍で起きている「コロナ差別」という人権侵害。このネガティブな反応は、人々の多様性への関心の薄さや無理解が引き起こす、マイノリティに向けられた差別に通じるものがあります。コロナ禍を乗り越え、SDGs(持続可能な開発目標)を達成するために、今後、社会はどのような変革を目指すべきかを考えてみます。(伊藤芳浩・NPOインフォメーションギャップバスター理事長)

■ネガティブな反応に悩まされた子ども時代

新型コロナウイルスの第三波が想定以上に収まらず、緊急事態宣言が延長になりました。コロナ禍では、自粛やソーシャルディスタンス(社会的距離)による日々の生活の不便さなどから、メンタルに不調を来す人も増えてきています。

また、夜間営業している店舗や県外のナンバーを付けた車を監視し、張り紙をするなど嫌がらせをする「自粛警察」や医療従事者やコロナ感染者を誹謗中傷や不当な差別を行う「コロナ差別」などギスギスしたネガティブな反応が社会に出てきています。

このようなネガティブな反応は、正常であろうとする欲求が、異常なものを排除しようとする心理を引き起こし、生じるものです。しかし、そのような反応が必要以上に大きくなると、相手を傷つけたり、社会から排除したりしてしまいます。それは、お互いの人格と個性を尊重し合いながら共生する社会から外れることになってしまいます。

私自身もかつては、このネガティブな反応に悩まされてきました。

私自身、聞こえないため、どうしても正確に相手の言っていることを把握することが難しくなります。そのため、例えば、仲間内で決めたルールなどを理解できなくて、結果として、ルールを守れず、その結果いじめられることを経験しました。私自身、何が正しいのかが分からず、わざとやったわけではないのに、いじめられることは、どうしても納得のいかないことでした。

■ダイバーシティの理解・受容が生きやすい社会に

自分がどんなに努力をして、話の内容を理解しようとしても、それは難しいことでした。それでも周りの人が聞こえないことを理解して、分かるように教えてくれたりすると、初めてルールを理解して、守ることができるようになりました。

私は、いじめる人もいじめられる人もどちらとも悪いとは思いません。社会の障害者に対する理解と協力が足りないだけです。社会の障害者に対する理解を広めるためには、私たちが世の中には色々な人がいるという多様性(ダイバーシティ)について、もっと関心を持ち、理解していくといったポジティブな対応をしていく必要があります。

2015年9月の国連サミットで採択された2016年から2030年までの国際目標である持続可能な世界を実現するための17のゴールであるSDGs(Sustainable Development Goals)は「地球上の誰一人として取り残さないこと」という考え方に基づいており、「多様性の理解・受容」とも合致しています。

多様性の理解・受容が進めば、マイノリティ(小人数派)にとって生きやすい社会が実現します。立場や環境が変われば、誰でもマイノリティになり、差別を受ける可能性があります。例えば、今は健康であっても、コロナに罹ってしまうと、いつ、コロナ差別を受けるかもわかりません。差別が起きるのを防ぐために、社会はさまざまな方法で防ぐ手段を講じています。例えば、差別をさせないための正しい知識を広める啓発活動や、差別を禁ずるための法律といった手段です。

■ネガティブな反応を防ぐための取り組み

「平等」と「公平」の違いを表す。「公平」では、すべての人が「見える」ように配慮されている
itou

伊藤 芳浩 (NPO法人インフォメーションギャップバスター)

特定非営利活動法人インフォメーションギャップバスター理事長。コミュニケーション・情報バリアフリー分野のエバンジェリストとして活躍中。聞こえる人と聞こえにくい人・聞こえない人をつなぐ電話リレーサービスの公共インフラ化に尽力。長年にわたる先進的な取り組みを評価され、第6回糸賀一雄記念未来賞を受賞。講演は大学、企業、市民団体など、100件以上の実績あり。著書は『マイノリティ・マーケティング――少数者が社会を変える』(ちくま新書)など。執筆記事一覧

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..