KIVA(キヴァ)共同創設者兼CEO マット・フラネリー氏インタビュー「マイクロファイナンスで世界を変える」

一人当たり25ドルという小口金額を集め、途上国の起業家に貸付し、事業を支援することで貧困撲滅を目指す米NPO「KIVA」。「Person to Person(P to P):個人の力を活かす」マイクロファイナンシング(小口金融)オンラインシステムを世界で初めて実現した若き社会起業家がこのたび来日した。KIVAの 社会的インパクトや今後の可能性とは。

――KIVAを始めたきっかけをお聞かせください。

04年、26歳のとき、妻である共同設立者のジェシカと二人で、ボランティアとしてウガンダに行きました。そのとき初めて、マイクロファイナンスについて 学び、小額で世の中にこんなに良い影響を与えられるということを目の当たりにしました。
ウガンダに融資をしたいと思っていたので、KIVAを立ち上げる際、オンラインで株式市場を作りたいと思っていました。ただ、株式市場だといろいろと規制 がかかるということで、株式ではなく、P to P の融資を始めることにしました。

――ウガンダでは実際どのようなビジネスがあるのでしょうか。

人気のあるビジネスは洋服販売で、中古品と新品を販売しています。アフリカに行けばわかるのですが、現地の人も、「シカゴ」「フロリダ大学」「エミネム」 などと書かれたシャツを着ている人が多いのです。米国、欧州、日本など世界各国から集まった中古の衣類が、アフリカで取引されています。輸出側も現地で洋 服を販売している人にとっても、大きなビジネスです。中古衣類販売も発達している一方で、伝統的なアフリカの民族衣装を売る人もいます。今はとても小規模 になってしまいましたが、結婚式や特別な儀式のときの衣装を販売している人もいます。
民族衣装の仕立屋にしろ、中古販売にしろ、お店を構えるためにはまずは資本が必要です。中古衣服販売をする人は貧しい人が多く、洋服の大きな塊を一つ、 10ドルくらいで売っています。頑張って売って、何とかしのいでいる状況です。KIVAはそういった数千、数万人に方々を支援しているのです。

――いくらから融資できるのですか。

今は一口25ドルからですが、もう少し下げようかとも考えています。ネット上では、一人当たりの融資額が小額になっている傾向があります。ツイッ ター、フェイスブックなどからも、安く簡単に融資できるようにしたいです。
実際、コストも下がってきています。全体3-5%が送金にかかる費用ですが、コストが小さくなれば、人々もより融資しやすくなると思います。

――利子が21%というのは高い印象があります。

東京では、高いかもしれませんが、モンゴルでは低いでしょう。小口融資の場合だと、世界的に見て大体3割くらいです。
私が特に強調したいのは、利率をかけていますが、実際多くのMFIは赤字ということです。それは、MFIは小口の融資は遠いところにいる女性に融資するこ とが多いからです。融資対象が遠い村にいる女性の場合、100ドルの融資のために、週に一度は状況を尋ねたりします。自国のインフラ率が10%。そうする 融資にかかるコストというのも全体10%くらいかかります。MFIの従業員にも給料を払わなければなりませんし、それらは利子でまかなう必要があるので す。

――ウェブサイトを立ち上げてから、どのくらいで最初の申し込みがあったのでしょうか。

ウェブサイトを立ち上げて、1分もかからずに、最初の貸付者が現れました。実は私の父なのですが(笑)ウェブサイトの開発にかかった時間は約3カ月で、仕 事の後に毎晩少しずつ制作していました。
当初、特別な金銭的な支援者はいませんでした。初めの頃は、身内中心だったのですが、爆発的に広まったのは、ブログがきっかけです。当時ブログはまだ新し くて、効果は絶大で、6カ月程度で広まりました。

――現地法人であるMFI(マイクロファイナンスインスティチューション)はどのようにして見つけるので しょうか。基準はありますか。

MFIの見つけ方は、2通りあります。一つは、ネットからの応募です。ウェブサイト上で申し込みできます。もう一つは、現地にいるビジネス開発のスタッフ が見つけてきます。 どう選択していくかの基準ですが、応募してからパートナーになるまでに12段階のステップを踏みます。主に団体のファイナンスと社会貢献度を重要視してい ます。
ファイナンスの部分については、資金調達の透明性、セルフサステナブルであるか、信頼できる資金を出してくれる基盤があるか、などを見ています。重要なの は、MFIが真実のコストを借主に見せているのかということです。借主に知識がないことで、まれに曖昧な情報を見せていることもあります。良いMFIは、 きちんとオープンに借主に説明します。
社会貢献度の観点からは、その団体自体が貧困を助けることを目的としているかどうかを見ています。客観的な判断基準としては、団体の具体例を確認していま す。けれども、審査は難しく、やはり主観に頼ることもあります。

――50カ国以上にネットワークがあるそうですが、MFIは何団体あるのでしょうか。

120団体です。

──MFIはKIVAから退会させられることもあるのでしょうか。

KIVAのポリシーに背いた場合は退会する必要があります。スキームを借主に提供しなかった場合や、MFIが資金を取ってしまい、KIVAに送金しなかっ た場合です。

──マイクロファイナンスが必要としている資金のうち、まだ2割しか調達できていないとのことですが、残りの8割はどのように調達するのでしょうか。

金額をより小さくして、融資しやすく、また融資を受けやすくするのが目標です。もう一つは、もっともっとKIVAを世界中に広めたいと考えていま す。これからは、ウェブサイトに力を入れていきたい。SNSなどのネットワークを生かし、ベンダーを増やし、活動を国際的にしていきたいのです。

──先進国でも格差はあると思うのですが、マイクロクレジットはどのようなことができますか。

アメリカンドリームという言葉があるように、米国は米国人の起業家精神から成り立っていると思います。マイクロファイナンスがあって今の米国がある と思うのですが、現在は、貧困層と富裕層の格差は大きくなっていると思います。そのような格差をマイクロファイナンスで埋めたいと思います。
今年初めて、米国内での融資を開始しました。そして、ケニアの方がサンフランシスコに融資したのです。先進国であるとか、発展途上国であるとか、融資に対 する偏見がなくなるといいです。

──米国内での融資を開始したところ、批判も多かったようですね。

実は、これまで4年間運営してきて、「なぜ米国内の人を助けないのか」というクレームが常にありました。私は、立ち上げ当初から07年まで、カスタ マーサービスを担当しており、携帯電話番号もウェブサイトに公開していましたので、常にユーザーと直接対話することができました。日曜に教会に行っている ときでさえ、全く知らない人から電話が鳴っていたのです。
弁護士から米国内での融資は全く問題ないということを聞き、09年6月に国内でも融資を始めたのです。数年受けていたクレームを解消することができました し、NY、サンノゼ、サンフランシスコ、ボストンなどで、融資が始まったのは嬉しかったです。 ところが、今度は別の人たちからのクレームが増えました。「米国は豊かな国なのになぜ融資をするのか」という内容でした。抗議サイトさえでてきたのです。 そこで、悩んだ私は、ユーザーに投票してもらうことにしました。結果、ユーザーの60%は許可してくれたのです。ボードメンバーで会議をし、最終的には、 国内の融資は続けるが、積極的には拡大しない、ということに落ち着きました。
国内の融資を始めた結果、ベンダーの数も国内外で増えましたし、国外への融資を奪ったのではなく、国内と国外に良い影響を与えたと思っています。
ユーザーの意見を聞くという姿勢、合理的な判断をしていると伝えることは大切です。

──マットさんの個人の夢はありますか。

自分自身もウェブサイトに登録している一起業家として、将来的に別の事業に貢献できているような立場になりたいです。 事業を立ち上げるのと、継続させるのは全く別です。もしかしたら、私の能力は、起業することに向いているかもしれません。KIVAが大きくなるにしたがっ て、他の自分に合う仕事があるのかもしれません。

──これまでの一番の困難は何ですか。

発展途上国で、お金をだましてとっている業者がいたことです。設立当初、メンバーは5人いたのですが、20代半ばの私たちには、深い知識もお金もあ りませんでした。現地視察に行くのは大変だったので、メールやスカイプで取引をしたのです。
当時、オンラインで約60団体と取引していたのですが、なんとその10割が悪徳業者だったのです。なかには友人ともいえる存在の人もいて、詐欺にあったと きは、心が痛み、やめてしまおうかという気持ちにもなりました。
そこで、止めようか、この事実をいっそのこと隠してしまおうか、悩んでいましたが、多くのサポーターが勇気付けてくれたんです。この事実を公開したときの 反応が怖かったのですが、正直に話したことでユーザーは受け入れてくれました。

──100年に一度の経済不況といわれるなかで、融資額が伸びていると聞いて驚きました。

苦しいときほど、慈善の心に意識的になるのでは、と実感しています。米国の場合、苦しい時期の方が、アクセスが増えるのです。アクセスは増えても、 一人当たりの融資額は低くなるのですが、小額をたくさん集めた方が集合体としては大きい。好況にもどっても、人が離れることもないでしょう。実際、立ち上 げたときは、好況でしたから。一人当たりの額が上がると思います。苦しいときは、お互いが小さい単位でも助け合おうという精神がでてくるのだと思います。

──マットさんが考える理想の未来像はどのようなものでしょうか。

第三世界、発展途上国という概念が古びたものになればと思います。

──社会起業家を目指す人へのメッセージを頂けますか。

私は、起業当時、成功するかどうか、利益になるかどうかもわからないことによく挑戦したね、と言われました。確かに、怖いことかもしれない。 そういった質問をされたときには、「自分の活動はアタマ、お金、ビジネス的なことから考えるのではなく、心で考えることも重要」と答えます。心が訴えるも のに従って活動することが自己の充実にもつながるからです。 会社を辞めて起業しようと考えていても、ただちに会社を辞める必要はありません。私も、2年間は会社に勤めながらKIVAの活動をしていました。ただ、心 に訴えないという仕事や活動をし続けるのも良くないとも思います。

マット・フラネリー氏プロファイル

民生用録画装置サービスなどを展開する米国のベンチャー企業・TiVo,Inc.でコンピュータープログラマーとして働きながら、04年後半に KIVAのモデル開発を始める。05年12月、KIVAの活動にフルタイムで専念するためTiVo,Inc.を退職。以後、試験的プロジェクトであった KIVAプロジェクトを、世界中から数百万ドルもの貸し付けが途上国の起業家に対して行われるオンラインサービスに育て上げた。ドレイバー・リチャーズ フェローを務めるとともに、スコール財団が提供する、社会起業家のためにオンライン・コミュニティ「ソーシャ ル・エッジ」のブロガーでもある。スタンフォード大学卒業、分析哲学修士。

■KIVAの仕組み)

KIVAは、「Person to Person」(個人の力を活かす)マイクロファイナンシングのオンラインシステムを世界で初めて実現したNPO。個人が一口25アメリカドルからの小口 金額を、貧困状態に置かれているアントレプレナーにオンライン操作で貸し付けすることで、貧困から脱却するためのビジネスを応援する仕組みとなっている。 この貧困削減のための融資を通して、人々をつなげることがミッションである。

<貸し付けの流れ>

  1. 貸し手は、KIVAウェブサイトでアントレプレナーのプロフィールを確認して貸付相手を選び、PayPalかクレジットカードを使って貸付決済をする。 KIVAは決済された資金を、世界各所にあるKIVAのマイクロファイナンス・パートナー団体に送る。
  2. マイクロファイナンス・パートナー団体が、選ばれたアントレプレナーに資金を渡す。パートナー団体は資金だけでなく、トレーニング機会などアント レプレナーがチャンスを活かしていく為のサポートを提供している。
  3. アントレプレナーは貸付金を返済する。返済状況やアントレプレナーの近況を伝える情報がKIVAウェブサイト上に掲載されたり、メールで貸し手に 伝えられたりする。
  4. 貸し手は、返済された資金を再度貸付したり、KIVAへ寄付したり、KIVAアカウントから引き出したりすることが出来る。
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