がん当事者が「箸」開発、「食べる喜び」取り戻す

猫舌堂代表の柴田敦巨さん。看護師として働いた経験もある。

こうしたなか、治療と並行して、ネットで仲間を探し始めた柴田さんは、2015年のある日、オフ会で彼らと外食をすることに。「彼らのおかげで、一人じゃないと思え、2016年にがんが再発した時も、前向きに手術や治療に臨めた」と振り返る。

顔面マヒの食べこぼしなどの経験も「あるある」話として盛り上がれた。柴田さんは「一人じゃないと思えた」と振り返る。

現「猫舌堂」顧問の荒井里奈さんとも、オフ会で出会った。舌をほぼ全摘出した荒井さんは長い間、チューブで消化管に栄養を直接摂る生活を送っていた。「自分は一生ご飯を食べられなくなったのかな、すごく社会的な疎外感があった」という。

オフ会で盛り上がる話題の一つに「世の中は、なんでこんなに食べにくいスプーンばかりなんだろう」というのがあった。

木のスプーンでは滑りにくく、大きく分厚かったり、深すぎたりするものはこぼしてしまう。口を開く事自体もおっくうにもなる。プラスチックでは味気ない。「これは良さそう」と色んなスプーンを買ってみても、何か違うという。

同じ経験を語り合い「分かる、分かる」と話していると、ふと「それだったら作ったらいいんちゃう」という話になった。

柴田さんが務めていた病院の運営会社、関西電力には社内ベンチャー起業チャレンジ制度があり、コンペに通ると出資や事業支援をしてくれる。

看護師の後輩に「気軽に立ち寄れて、相談できる場所をつくりたい」と話してみると起業チャレンジ制度を勧められた。カトラリー製作のアイデアは、チャレンジに応募する際、ビジネスプランを考える中で真剣に向き合ったなかで、生まれたものだ。

「医療現場ではできないことがたくさんある」と当事者になってわかったと言う柴田さん。2019年末に応募すると採用され、実証実験を行い、2020年2月、関西電力のグループ企業として「猫舌堂」を立ち上げた。

■「製品を通じて、一人じゃないと感じてほしい」

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