上勝町のごみゼロホテルで「なぜ」を紐解く旅

エコホテル巡礼(2)ゼロ・ウェイストアクションホテル「HOTEL WHY」

「なぜ?」と訴えかけているゼロ・ウェイストセンターの全景。右の丸い建物が「ホテルWHY」
「なぜ?」と訴えかけている上勝町ゼロ・ウェイストセンターの全景。右の丸い建物が「HOTEL WHY」

日本初、上勝町が「Zero Waste Town」宣言

標高100mから700mを超える山間部に、大小55の集落が点在する徳島県上勝町は、2003年に、自治体として日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を行ったことで知られている。上勝町は、「日本の棚田百選」に認定されている樫原の棚田や、年配者たちが創り出した新たな産業概念である「彩農業」(葉や花などを料理のツマ物を商品化)の成功など、自然豊かな環境に生きる人々が穏やかな生活を営んでいる。

上勝町では、環境に対する意識を高めるために、「なぜ買うか」「なぜ捨てるか」「なぜ造るか」「なぜ売るか」など、「なぜ」(WHY)を、生産者と消費者双方の立場で日々のごみから学び、ごみのない社会を目指そうと試みを始めたのである。

上勝町のごみをゼロにすることとは、ごみ処理の方法ではなく、ごみ自体を出さない社会を目指すということ。上勝町では、基本的にごみ収集は行われない。生ごみはコンポスト化し、各家庭で堆肥化させるのだ。缶、瓶、段ボールなど、資源となるものは住民各自が「ゴミステーション」に持ちこみ、13種類、45分別を実施する。

「ゴミステーション」とは、後述のホテル「WHY」と同敷地内にあるごみの集積所である。ここに持ち込まれたごみは、持ち込んだ人がまずは細かく分別することで焼却・埋め立てごみから資源を救い、処理費用も大幅に抑えることができる。

「ゼロ・ウェイスト宣言」から18年が経過した現在、リサイクル率はなんと80%を超えているというから驚異的だ。

左側がホテルのチェックインもできる「くるくるショップ」。リサイクル品、リユース品が並ぶスペース。中央に自由に使えるライブラリィ「ラーニングセンター&交流ホール」、コインランドリー&トイレがあり、右端には会議もできる「コラボレーティブラボラトリー」。廃材やリサイクル材で作られた建物
右側がホテルのチェックインもできる「くるくるショップ」、中央にキッチン・ライブラリースペースがありレンタルも可能な「交流ホール」、コインランドリー&トイレ、左端にはレンタルオフィススペース「コラボレーティブラボラトリー」。建物は廃材やリサイクル材で作られた

上勝町の手つかずの豊かな自然を感じつつ、環境について学び考える機会が得られるホテルとして、また、大掛かりな上勝町ゼロ・ウェイストセンターの敷地内に併設されていることなどから、都会からも多くのメディアが取材に訪れている。マスコミに取り上げられることで、全国にこの様子が知れわたることになるが、それによりごみへの啓発活動となることも鑑みている。

この手の取り組みが成功するには、諦めず、面倒がらず、初頭の主旨にブレることなく、日々研鑽しながら継続することが重要なのだ。

エコ先進国、観光国家で美しい自然が売りのスイス山岳地に長く暮らした私自身、スイス人が何世代にもわたり、どれほどの努力をしてきた結果、箱庭のように美しいスイス国家の今があるかということを身に染みて知っている。

さらに、上勝町はゼロ・ウェイストの先駆者として、「未来のこどもたちの暮らす環境を自分の事として考え、行動できる人づくり」を2030 年までの重点目標に掲げ、再びゼロ・ウェイストを宣言すると表明しているのが頼もしい限りだ。

「くるくるショップ」内。現在は食器類や日常品、衣類などがたくさん並ぶ。上勝町在住の人は、住所や名前を登録し、ここに並ぶ品々を自由に持って帰り、リユースができる
「くるくるショップ」内。現在は食器類や日常品、衣類などがたくさん並ぶ。持ち込みは上勝町住民限定だが、町外の人も、ここに並ぶ品々を自由に持って帰り、リユースができる

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せきね きょうこ(ホテルジャーナリスト)

連載:エコホテル巡礼 仏国留学後、スイス山岳リゾート地で観光案内所勤務中にホテル暮らしを経験。仏語通訳を経て94年から現職。世界のホテルや旅館の「環境、癒し、もてなし」を主題に現場主義を貫く。ホテルのアドバイザー。コンサルタントも。著書多数。公式サイト:http://www.kyokosekine.com

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