「ワンコイン健診」で異常値3割

血液検査機器。保健師の資格を持ったスタッフが使い方を教えてくれるので、初めてでも安心だ

「保険証不要」「予約不要」「ワンコイン(500円)」で血糖値やコレステロールを検査できる驚きのサービスがある。生活習慣病は国民医療費の約3割を占め、生活習慣病の減少は、社会コスト削減に直接的につながる。自分たちの健康を守りながら、社会保障を支え合う仕組みをつくろうと「ワンコイン健診」を立ち上げた一人の若者がいる。

ワンコイン健診を行うケアプロ(東京・中野)の川添高志代表取締役(28歳)は、慶應義塾大学看護医療学部卒業で、看護師と保健師の資格を持つ。大学時代の病院実習で、不摂生で糖尿病になり、年間600万円の透析治療費がかかっている患者がいた。生活保護のため全額が税金で賄われている現状を見て、社会保障のあり方に疑問を持ったという。糖尿病で壊死した足を切断した患者にも出会い、健康診断の重要性を実感した。

川添代表は、大学3年生の時、米国研修に行き、ショッピングセンターやドラッグストアなどに設置されている簡易診療所「リテールクリニック」の存在を知った。日本での展開を模索したが、採血は医療行為にあたるため、医師がいない状態での血液検査ができなかった。そこで思い付いたのが、専用の検査機器を使用した自己採血である。医療経営コンサルティング会社などを経て、07年にケアプロを起業した。

ワンコイン健診では、「血糖値」「総コレステロール」「中性脂肪」「身長・体重・BMI(肥満度)・血圧・骨密度」の検査が各500円でできる。採血時間はわずか一分。結果は数分程度でその場で確認できる。携帯サイトからも閲覧でき、結果が保存されるので、継続的に健康管理ができる。

川添代表(右)と糖尿病が見つかった60代男性

受診結果は、標準値、要注意、要受診の3段階があるが、受診者の3割が異常値を示し、1割が要受診の判定だった。健診に訪れたある60代の男性は、ワンコイン健診で糖尿病が発覚したという。生活保護受給者、フリーターや子育て中の主婦など、健診に行く機会がない多くの人から感謝の声が届く。

これまで08年11月から2010年10月までの約2年間で4万人が受診したそうだ。常設のケアプロ中野店などのほか、フィットネスクラブ、パチンコ店などへの出張サービスも計600回以上行ってきた。

1月22日に開催された「社会イノベーター公志園」では、審査員特別賞を受賞した。「健診を一年以上受けていない健診弱者は4000万人。そのうち、ワンコイン受診者はまだ0.1%。3年後までに100万人を実現したい」と意気込みを語った。

実現するまでは、突然出店許可を取り下げられるなど多くの困難があったそうだ。既得権益に負けず、挑戦し続ける社会起業家にこれからも期待したい。(オルタナ編集部 吉田広子)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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