ストーブの煙突に触れてアチチ、という体験をしたことはないだろうか? その熱を土に取り込むことで輻射熱を効果的に利用し、快適な空間をつくる暖房器具である「ロケットストーブ」が静かな人気を呼んでいる。
宇宙にでも向かって飛び出しそうな名前だが、正体はドラム缶と煉瓦、土など身近な材料でできたストーブだ。構成はきわめて単純で、熱源となる薪の焚き口、燃焼トンネル(ドラム缶を二重に設置した内部に断熱材の煉瓦を積む)、煙道の三つのパートから成り、セルフビルドでの製作を前提としている。
通常の煙突のように本体からすぐに上昇気流を外部に出さず、煙道を床上に横引きし、蓄熱材の土で覆って輻射効果を高めているのが特徴だ。床暖房ならぬ、ベンチ暖房として盛土部分を活用できるのだ。
「ロケット」という気になる響きは、焚き口から勢いよく空気を吸い込む時に出るゴオーッという音に由来するのだそうだ。当然、動かないように安全に設置される。薪を完全燃焼させるので燃焼効率が高く、石油系燃料に比べて地球温暖化防止にも貢献できるという。
ブームの火付け役は、広島県三次(みよし)市で農・自然体験塾「共生庵」を主宰する荒川純太郎氏。米国、オレゴン州の知人宅でこのストーブに出会い、製作マニュアルの本を手に帰国。2006年に一人で第一号機を作った。その後、同氏の周りで自作を試みる人が増え、09年に「日本ロケットストーブ普及協会」を設立。作り方の解説書の出版・販売、製作のワークショップ、講師派遣などを行い、技術支援を行う。現在、広島県を中心に全国に完成事例が増えており、今後本格的な普及が期待される。
費用はステンレスの排煙ダクト代が主で、約5万円。製作期間は、基本部分は1日でも組み立てられるが、土を乾かせるのに 2、3カ月が必要。夏から作り始めるのがよいとのことだ。
同協会では、あえてキット販売等をせずに、技術を広めることで普及を図りたいという。その場にある材料で、それぞれの用途に応じて暖房設備をカスタマイズすることを推奨しているのだ。「石油や原子力への依存から解き放たれたい人たちに利用して欲しい」と協会事務局の石岡敬三氏は語る。
環境配慮型暖房器具として高性能であると共に、創意工夫の楽しみがロケットストーブの魅力だろう。個々の場所ごとに最適な暖房器具をつくること。それが世界各国で人気を呼ぶ秘訣なのかもしれない。(オルタナ編集部=有岡三恵)2011年1月27日