日本初の社会起業に特化したビジネススクール社会起業大学。600人以上輩出してきた卒業生は今、どんな活躍をしているのか。林浩喜学長が話を聞いた。第13弾は社起大1期生でもあり、今年10月には自ら事業立ち上げに参画した電子お薬手帳などで有名な「harmo(ハルモ)株式会社」の代表取締役 Co-CEOとして経営の指揮を執る33歳の若き社長石島知さんだ。(社会起業大学)

社会起業大学1期生の石島知さん

harmoは2010年、ソニーの社内ベンチャーとして生まれた。2019年に医薬品開発支援を手掛けるシミックグループに活動の拠点を移してからも、医療・健康情報のデジタルプラットフォームの発展に努めてきた。2021年10月1日、harmoは、シミックグループの一事業から、新会社「harmo株式会社」へ体制を一新した。詳しくはこちら

保育園からサッカーを始めた石島さんは、中2からパラグアイ、アルゼンチンにサッカー留学し、大学から東京に戻る。プロにはなれなかったが、大学2年の時にサッカーで国際協力をする“WorldFut”というNPOを立ち上げる。また大学在学中にロシアにも派遣留学。大学時代から数えると数十以上ものプロジェクトのプロデュースや運営に携わってきた。まさに「動」の人だ。

大学在学中に社会起業大学に入学し、卒業後ソニーに入社する。オーディオ事業の海外マーケティングを担当し、harmo事業立ち上げに参画。現職は株式会社harmo(ハルモ)の代表取締役Co-CEO。慶應義塾大学大学院システム・デザインマネジメント研究科修士課程修了という学歴だ。

かなり箸折った説明になってしまったが、このヒストリーの背後には記載しきれなかった多くのプロジェクトが隠れていることを付記しておきたい。

社会起業家としての3要素

社起大では社会起業家を、「自分らしさ」「社会課題」「ビジネス」の3要素を重ね合わせる

※SECMETHOD(セックメソッド)というオリジナル手法で育成しているが、石島さんの場合は下記のようになるであろう。

類まれなプロデュース能力(自分らしさ)×カテゴリーを問わず、世界の社会課題にチャレンジ(社会課題)×大企業のアセットをフル活用(ビジネス)

SEC METHOD

ソーシャルイントレプレナーとして

ソニーに入社した石島さんだったが、約3年後にharmoの立ち上げに参加する機会に恵まれ、40万人以上が利用する、お薬手帳(https://www.harmo.biz/customer/)でも国内有数の利用率を誇る事業に育てた。

現在はワクチン接種記録システムへの応用、そしてコロナ対応など、システム応用範囲を広げている。

電子お薬手帳サービスを提供するharmoの各種サービス

しかしここで石島さんの原体験「コートジボワール・パブリックビューイング・プロジェクト」についても触れておきたい。2014年、JICAからソニーにアフリカのコートジボワールの内戦後の民族融和に向けたプロジェクトの一環としてサッカーのパブリックビューイングを使ったプロジェクトが出来ないかという相談が持ちかけられる。

当時のソニーは創業以来の大規模な赤字が続くなど、経営的には厳しい時期であったが、1名のベテランプロデューサーと若手の有志が集結し、トップマネジメントに直談判するなどし、本プロジェクト実行の許可を得た。

パブリックビューイングを実現する為の機材類は社内を駆けずり回って調達し現地に送った。同国内13箇所、1万3千人を動員し、民族融和に向けて多大な貢献をした。そしてその時、「本気の志があれば、ソニーのような巨大企業でも動かせる」という貴重な原体験を得たのだ。

プレスリリース:
『JICAとソニー、2014 FIFA ワールドカップのパブリックビューイングをコートジボワールで実施(2014年10月2日)』

コートジボワール・パブリックビューイング・プロジェクト

社起大との出会い

社起大には3年生の時に1期生として入学した。理由はサッカー×国際協力を進めるWorldFutの事業を推進させる方法論を学びたかったから。社起大では自分で設定した社会課題に真っ直ぐに向き合う仲間達と「なぜやるのか?」を徹底して考えた。

また今では一般的になってきた社会起業家、ソーシャルビジネスという概念は当時まだ珍しく、社起大はそれらを世に知らしめる役割を持っていたという。

これまで内外で見てきた事例では、同じ社会課題解決への取り組みでも、自分起点(社起大でいう自分らしさ)の起業の方が、課題解決ありきの起業よりも継続性が高いという。また現在は世間ではSDGsの定着の様子も見えるが、石島さんとしては、SDGsについての理解と本当に解決したいと思っている人材は少ないと思っているようだ。

社起大はその実現の困難さをわかっている厚みのある集団と評してくれている一方、それらの概念がコモディティ化している(当たり前になってきている)中で、学校自体の差別化の必要もあるのではと指摘してくれた。

大学時代に設立したサッカー×国際協力のNPO『WorldFut』(前列右端が石島さん)

社会起業家を目指すあなたへ

最後に石島さんからイントレプレナーも含め起業を考えている皆さんへのメッセージをいただいた。

私が社会起業大学に入学した2010年頃は、社会課題の解決の主体は公共機関や一部のNPOが担っていたような状況であり、「社会の課題をビジネスの手法を活用して解決する」ことは、比較的新しい概念として捉えられていたように思います。

2008年のリーマンショック、2011年の3.11等を通じて、「そもそも、何のために仕事をするのか?」を個々人が問い直した時代だからこそ、社会起業大学という場の存在が際立った時代でした。

現在では民間企業でもSDGs等は当たり前になり、ビジネスの手法を活用して社会の課題を解決することに対して社会の理解は進みました。この10年間は、社会の課題をビジネスの手法を活用して解決するための「土台」が仕組みとして確立された10年だったと感じています。

そのため、所属している企業を有効活用して自ら解決したいと思う課題解決を進めていくこともできますし、所属している企業でできないことがあるのであれば、自身で「起業」することも一つの選択肢だと思います。

所属にこだわることなく、自分がやりたいと思う課題解決を、一番やりやすい場所でやっていける時代になってきていると思います。自分がやりたいと思い、社会のニーズがある場所であれば、必ず応援してくれる人が出てくると思います。

ここから先は、先人たちの「土台」を有効活用させて頂き、「飛躍」させる時代へと進んでいくものと思っています。今と、次の世代に少しでもより良い社会を残せるように、自分らしく楽しみながら頑張ってください。

石島 知(いしじま・とも)
社会起業大学 第1期修了
harmo株式会社 代表取締役Co-CEO
2012年、ソニー入社。オーディオ機器の海外マーケティングを経て、2014年からビジネスプランナーとしてharmo事業に参画。ソニー時代からharmoの経営戦略の立案、実行に携わる。harmo事業のシミックグループへの事業承継を主導。2019年6月にシミックグループ入り後は、harmo事業部長としてharmoの普及に尽力する。2021年10月、harmo株式会社設立に伴い現職に就任。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科卒

(聞き手)
林 浩喜
社会起業大学 学長(https://socialvalue.jp/about.html