代替肉の一つである大豆ミートが日本でもじわりと浸透してきた。ヴィーガンや環境意識の高い消費者を中心に広がってきたが、大豆特有の青臭さや栄養面で肉に劣っていた。そんな中、栄養価が肉に匹敵する高品質の大豆ミートが話題を集めている。手掛けるのは福岡発ベンチャー、自身の子どもの大病をきっかけに健康と環境に配慮したライフスタイルを広めることを決意した社会起業家だ。(オルタナS編集長=池田 真隆)

ジャパンソーシャルビジネスサミット2021で最優秀賞に輝いた白坂さん

「環境に配慮したライフスタイルを日本のスタンダードにしたい」——。昨年11月、「ジャパンソーシャルビジネスサミット2021」の最優秀賞に輝いた白坂大作さんは壇上で思いを叫んだ。

このサミットはソーシャルビジネス業界最大手のボーダレス・ジャパン(東京・新宿)が主催するソーシャルビジネスコンテストだ。事業性、社会性、起業家力、フィット性の4つの項目で「未来の社会起業家」を審査する。

白坂さんは自身が手掛ける大豆ミートブランド「SOYCLE(ソイクル)」を軸に環境に配慮したライフスタイルを日本の「スタンダード」にすることを目指した事業プランを発表した。

SOYCLEの特徴は栄養価の高さにある。発芽大豆を使っているので、うま味成分であるグルタミン酸が豊富、栄養価は肉に匹敵する。これまでの大豆ミートは、大豆を搾って抽出した脱脂加工大豆を使っていたので油臭さや大豆特有の青臭さがあった。栄養面でも肉に劣っていた。

従来の大豆ミートは植物性油脂の製造時に出る副産物からつくるが、SOYCLEは発芽させた大豆から作っているので大豆ミートならではの青臭さが少なく、栄養価が高い

乾燥した発芽大豆をフレーク状にしたことで、サラダやスープには湯通ししないで直接ふりかけるだけで食べられる利便性も備える。トマトソースのパスタにかけると「ひき肉」のようになり、サラダにかけると「クルトン」のようになる。2021年6月から自社ECサイトで1パック490円(100グラム)で売り始め、これまでに4500パックを売り上げた。主な購入層は20~30代の女性で、アスリートも増えているという。

公式サイトではSOYCLEを使ったレシピも紹介している

きっかけは子どもの大病

白坂さんが大豆ミートに関心を持ったきっかけは子どもの病気だ。幼少からサッカーを始め大学は名門・順天堂大学でプレーした。2005年に大学を卒業すると大手スポーツクラブのインストラクターや通販サイトのウェブコンサルなど14年の社会人生活を経て、2019年7月に起業した。

会社名は「上向き」(福岡市)。社名には「今日より明日をよりよい社会にしたい」という意味を込めた。ビジネスで社会課題に取り組むことを考えていたが、会社を登記したときには事業内容は明確になっていなかったという。白坂さんに独立した経緯を聞くと、「誰かに時間を支配されたくなかったから」と答える。

ちょうどその頃、ボーダレス・ジャパンが運営する社会起業を学ぶビジネススクール「ボーダレスアカデミー」に通いプランを磨いた。前職からの付き合いで通販サイトの営業支援を行っていたので、収入は確保できていた。

実は、大豆ミートの事業は考えていなかったと白坂さんは明かす。もともと社会人になってからすぐに、多世代交流を促すNPOを立ち上げた経験があったので、その実績を活かしてシニア層と若者のマッチング事業を考えていたという。

そんな矢先、その方針が大きく変わる出来事が起きる。起業して半年が過ぎたころ、1歳半の息子が小児ガン・ステージ4と診断される。すぐに入院して約1年間の治療を経て日常生活が送れるまで回復したが、この出来事から健康と地球環境に大きく関心を持つようになった。

こうして出合ったのが大豆ミートだ。牛が出すメタンガスによる地球温暖化を抑制、世界人口の増大で懸念される「タンパク質難民」への打開策、水や穀物など環境資源に頼らない点などが自身の問題意識と合致した。

だが、市場に出回っている大豆ミートを食べると青臭さや味と食感に違和感を覚えた。「美味しい」と思える大豆ミートを探したところ、発芽大豆を見つけた。特許技術によって発芽した大豆を使用した大豆ミートはうま味成分が豊富で、高オレイン酸大豆なので異風味を低減した。さらに、栄養価も豊富で肉に引けを取らない。

栄養価は肉に匹敵する

この発芽大豆をつくっている会社から取り寄せ、乾燥した状態で袋詰めした。主に自社ECサイトで定期便や単体で販売する。SOYCLEの公式サイトにはおすすめレシピだけでなく白坂さんが執筆したコラムもあるので、大豆ミートを通して環境課題について学べる。

目指すのは「人口の3.5%」

白坂さんが目指すのは大豆ミートを広めることではない。ミッションに掲げた、環境に配慮したライフスタイルを日本のスタンダードにすることだ。

白坂さんは、「エコフレンドリーな人を増やしたい。いずれは420万人が参加するエココミュニティをつくる」と話す。

大豆ミートでエコフレンドリーなコミュニティづくりを目指す

420万人という数字は社会運動の法則から設定した。人口の3.5%が参加する社会運動は成功するといわれている。日本の人口の3.5%が420万人に当たる。

まだ構想段階だが、できることから動く。商品購入者に対して、環境にやさしいサービスや商品を紹介した機関紙を送り出した。季節に合わせたおすすめレシピと社会課題の解決につながるサービスとその運営者の思いを届ける。

ともに歩む仲間も着実に増える。これまでは実質白坂さんの「一人会社」だったが、3月末には元ジャフコグループの金井一朗氏が取締役に加わった。金井氏はベンチャーキャピタリストとして数々の企業の成長を後押ししてきた人物だ。

高品質な大豆ミートは日本の食卓を変え、ライフスタイルも変えるのか。白坂さんはこれからの活躍を期待したい社会起業家の一人だ。

SOYCLE