【連載】政策起業家とは何者か(9)

今回は政策起業家に必要な「倫理感」について考察します。スキルが秀でている政策起業家は社会に必要な政策を、スピード感を持って作ることができます。否定すべきことではないのですが、「一人で」作れる能力を持っているからこそ、「公の意識」が大切です。(三井 俊介・NPO法人SET理事長)

先の記事で、NPO学会で発表された、『Social Entrepreneurship and Business Ethic(社会起業家とビジネス倫理)』という洋書の概要とそれに基づく考察について書きました。

その中で、「ダークヒーロー化したリーダーに依存し、非民主的になる」という論点があり、その中の一つで政策起業家に言及されているものがあったので改めて引用します。

【個人裁量型意思決定公共政策との組合せによる弊害】
革新的なソリューションを普及させたいビジネス志向NPOは政策起業家として 活動し、首⻑・中央官庁・国会議員などの裁量権を持った個人にアプローチ して事業を政策化する。このプロセスにおいて、民主的な社会運動・ネットワーク・連携・検討・審議が必要でないため、様々な問題が生じる。

というものがありました。本日はこちらについて書きたいと思います。

まず、NPO学会では「NPOリーダーの倫理」について複数名の方が発表されていたのですが、その要点をまとめると下記の通りです。

・余裕のない中で個人の力量でなんとか推し進めているNPOは、団体内で無意識にパワハラが起こりやすいのではないか。(社会的使命というものを大義にすることで、他の部分でのよくないことに目を瞑ることになっていないか?)また自分自身が社会のルールや、現実世界の社会課題当事者の問題の解決、構造の解決を目指すのであれば、より厳密な倫理観が必要なのではないか?しかし現実世界において、ソーシャルセクターがある程度の「倫理」の共通認識を持つための議論の場や言語化の機会がないのではないか。

・「制度化こそ目指すべきゴール」になっていく社会活動。
制度化が目指すゴールになると業界団体ができてくる(現場に足を運べない官、現場の意見をまとめて欲しい官の存在のため)。その業界団体の長が全国で研修を行い、何が正しいかが一つにまとめられていく傾向があり、多様性が失われる。そして課題を持っている当事者が軽視されていく。

NPOのリーダーは使命感に動かされるが、変わりゆく社会と使命感のアップデートが難しい。その使命感に支配されていくフォロアーや業界団体の人たちとなると、彼らは思考停止に陥ることで、社会の変化とともに変わる倫理観と離れることになるのかもしれない。

・NPOやソーシャルビジネスのリーダーは自己肥大しやすい。社会的使命に突き動かされているという安心感にこもる。社会善を目指す活動こそ、倫理問題が起きやすいと認識し、勉強、アップデート、意識していく必要がある。

「倫理」は非常に難しいテーマだと思います。なおかつ、情報が溢れ、何が正しいかわからない時代の中で私たちはどう「倫理」を育んでいくべきなのかは非常に重要なトピックだと思います。

そして政策に影響を及ぼす「政策起業家」こそ、より「倫理」が求められると思います。

引用にあるように、政策起業家は事業を政策化していきます。その中で民主的な社会運動・ネットワーク・連携・検討・審議をせずに、裁量権を持つ個人にアプローチをかける場合があるからです。

政策を作る中枢に入り込む場合があります。その際に、一人の意見や考えによって政策が作られてしまうことは早く形になる反面、恐ろしいことでもあります。

前にローカル政策起業家をインタビューしたときにおっしゃっていたことが印象的でした。

政策起業には『公の意識』がものすごい重要だなと思います。ある種、政策起業家が自分たちの利益を誘導するために、ここの文言にこれに入れますなんてことを判断できるようになってしまうと危険は危険だと思うんですよね。なので、住民が本当に何を求めているのだろうか、自分や自団体の利益のためではなくという視点を持ち続けることは非常に重要だと思います

これから義務教育で「公共」の授業も始まります。倫理観、公共の意識をいかに国として育んでいけるか。そして政策起業家として活躍する人々を増やしていく上で、どのように倫理観や公共の意識を磨き続けられるか、醸成させられるかは非常に重要だと思いました。