記事のポイント
①次世代の燃料として、政府や産業界が水素に大きな期待を寄せている
②水素は温室効果ガスを出さず、枯渇せず、発熱量が高いとされている
③しかし一つひとつ検証すると「夢の燃料」ではない現実が浮き彫りに
「水素社会」という掛け声が、政府や企業、マスコミから聞かれるようになって久しい。水素は燃やしても温室効果ガス(GHG)を出さず、枯渇せず、発熱量が高く、貯蔵したり輸送したりすることもできる。夢の燃料と言われているが、本当にそうなのだろうか。(オルタナ客員論説委員・財部明郎)

■「水素はCO2を出さない」の落とし穴
水素を夢の燃料とする根拠は、主に4つある。
① 燃やしてもCO2などのGHGを出さない
② 無尽蔵に作り出せ、枯渇しない
③ 発熱量が高く、燃焼効率が良い
④ 貯蔵、輸送が可能
それぞれ検証してみよう。まず、水素は燃やしてもGHGを出さないのは間違いないが、製造段階までさかのぼったらどうだろうか。代表的な製造方法が「水蒸気改質法」で、天然ガス(主成分:メタン)や石油に水を高温で反応させて作る。メタンを原料とした場合の反応式は次のとおりだ。
CH4+H2O → CO +3H2
CO(一酸化炭素)は有毒ガスなので、そのまま捨てられない。そこで水を反応させてCO2と水素にして、この反応でも水素を作り出す。これを「水性シフト反応」というが、このときCO2が出る。
CO+H2O → CO2+ H2
水蒸気改質法では石油や天然ガスから水素を取り出すだけでなく、一部は水(水蒸気)を分解して水素を得る。水の分解するにはエネルギーが必要で、その熱を作り出す際にCO2などのGHGが発生する。
「水の電気分解」で水素を作る方法もある。水に電極を突っ込み、電圧をかけることによって水素と酸素に分離するが、その電気を火力発電所で作ればGHGが発生する。これを解決するには太陽光や風力発電を用いるしかなく、再生可能エネルギーで作った水素を「グリーン水素」と呼ぶ。
製造時に出るGHGを回収して、地下深くに貯蔵する方法もある。こうして作った水素を「ブルー水素」と呼ぶが、これを続けると将来の貯蔵場所がなくなってしまう。やがて限界が来るものは、サステナブル(持続可能)といえない。
■「無尽蔵で発熱量が大きい」という誤解
水素は無尽蔵な海水からも作れるが、海水自体はエネルギー源ではない、電気分解して得られる水素分子(H2)になって初めてエネルギーを持つ。繰り返しになるが、電気分解に必要な電気を火力発電所で作るなら、燃料となる天然ガスや石炭は枯渇性資源である。
私たちは水素が欲しいのではなく、水素を媒体として得られるエネルギーが欲しいのである。水素は単なるエネルギーの運び屋に過ぎないのであり、エネルギーが無尽蔵にあると勘違いしてはならない。