記事のポイント
① NPO法人の総収益のうち寄付が占める割合はわずか5%だったことが判明
② NPOは寄付の他にも事業収益、助成金、補助金、会費など収益源が多様である
③ NPOの経営実態を正しく知ることは、寄付先を選ぶ際の参考になる
NPOは寄付で成り立っていると思う人も多いだろう。しかし実際のところ、寄付収益は全収益の5%ほどしかない。NPOは寄付の他にも事業収益、助成金、補助金、会費などの収益源があり、その構成は多様である。経営実態を正しく知ることは、寄付先団体を選ぶ際の参考になる。(非営利組織評価センター=村上 佳央)
■寄付収益は総収益の5%ほどしかない
今年7月に出版された『NPO法人の財務データ2021』によると、NPO法人の総収益の80%を事業収益が占め、寄付収益は5%ほどしかなかった。このデータはNPO会計支援センターの会計ソフトを5年以上使用する164団体を対象に財務集計したものだ。
特に障がい者福祉を行う団体は顕著であり、就労支援の分野では総収益の96%が事業収益である。収入源の順位は1位が事業収益、2位助成金等収益、3位寄付収益、4位会費収益となっている。
■全費用の60%超が人件費、しかし研修費はわずか
対人サービスを行うNPO法人は、活動に関わる人材が資本であることから人件費の割合が多い。
同財務データによるとNPO法人の全費用の60%が人件費という結果が出た。しかしこれは決して潤沢な経費が掛けられているとは言えない。
内閣府の2022年度調査では、NPO法人が抱える課題として「人材の確保や教育」「後継者の不足」がピックアップされている。NPO法人自身の課題認識がある一方で、研修費の割合は費用のわずか0.6%に留まるなど、人材育成に必要な経費が掛けられていない。
NPO法人の組織形態はあまりに多様なため財務分析が進んでこなかった分野ではあるが、12年前に会計基準が整備されたことでその実態が少しずつ分かるようになった。
今回明らかになったこれらのデータは、年間200団体以上の非営利組織評価を行うJCNEの実感とも合致している。
寄付率が小さい理由として、個人寄付の受け取りにかかる団体側のコストが挙げられる。決済システムの導入や、寄付者の個人情報の管理、お礼メッセージの送付、寄付をどのように使ったか(使途)の報告など、不特定多数の人から受け取る寄付の事務負担は膨大である。
そのため寄付募集は行わず、「申し出があれば受ける」団体も多い。対して寄付を積極的に集めている団体の中には、団体の認知度を上げたい、支援者(ボランティア・会員・受益者など)を増やしたいといった、収益以外の目的を挙げる団体もある。
また、人材育成にかかる費用は潤沢とはいえない。もちろん研修費にコストをかけず一時的なボランティアのみで優れた活動を行う団体も多い。
弁護士や税理士、ITなど既に専門知識を有する人材が兼業として社会貢献活動を行う「プロボノ」も増えてきた。
一方で、団体内部にノウハウを蓄積したり、支援の質を上げていくためには、スタッフの正規雇用と継続した研修による長期的な人材育成が必要である。
特に被害者支援や子ども支援など、事業で対価を受けづらい分野については、人材が必要不可欠だが、育成する余裕がない状況にある。
社会にはいまだにNPO法人は「事業収益をあげてはいけない」「ボランティアで運営されている」という認識が根強い。その経営実態を正しく知ることで、NPO法人に何にお金を使ってもらいたいか、資金を提供する側の認識も変わっていくのではないか。