原子力発電、本当のコストとは?

津波で破壊された東電福島第一原発の構内

「原子力発電にかかるコストは本当に安いのか」。東京電力福島第1原子力発電所をめぐる事故で原子力政策をめぐる議論が活発になる中で、改めてこの問題が注目されている。政府の支援に支えられた既存の原発の発電コストは低い状況だ。しかし今回の事故を契機にコストをめぐる状況は大きく変わる可能性がある。

各方式の発電コストは1キロワット時(kwh)当たり原発5.3円、火力では石炭5.7円、天然ガス6.2円、石油10.7円、水力11.9円。これは経産省・資源エネルギー庁が40年運転で試算した。原発は大量に発電し、しかも会計上の処理で初期投資費用が分散されるため、長期間で見た場合にはコスト面で有利になると主張されてきた。

また化石燃料を使う火力発電を原発に変えるだけで1基当たり数100億円から1000億円規模の燃料コスト削減になるとされる。電力会社が原発導入を進めた背景はここにある。

ただし試算では異論も出てきた。立命館大学の大島堅一教授は著書『再生可能エネルギーの政治経済学』(東洋経済)などで、政府による財政支援、償却評価の見直しをすると原子力原発の価格は高くなると指摘した。

1970年から2007年までの実績で、原子力で10.68円、火力で9.90円、水力で7.26円となり、原発が特にコスト面で優位に立つことはないとした。さらに「バックエンド費用」と呼ばれる放射性廃棄物の再処理と廃炉費用、さらには原発の発電を使う揚水発電の建設費を考えれば、コストはさらに膨らむという。

また今回の事故で、その処理と補償費用も膨大になることが明らかになった。一部報道では賠償金額は暫定的に4兆円とされる。東京電力の09年度連結決算では経常利益は2043億円と支払い余力はそれほどない。原子力災害の負担を前に、民間企業である電力会社が今後原子力事業を積極的に行うことはできないだろう。

「原発のコストは安い」。こうした主張はもはや当てはまらない可能性が高い。(オルタナ編集部=石井孝明)

原子力コンセンサス 原子力発電のコストP8ページ

http://www.fepc.or.jp/library/publication/pamphlet/pdf/consensus2010.pdf

電力中央研究所研究報告 わが国における原子力発電コスト構造の将来展望

http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/download/X8EPzkQIdm5owC0ovNrknQymvT02m58R/report.pdf

原発の本当のコスト‐公表データから見えてくるもの(大島堅一立命館大学教授・FOEジャパンで公開)

http://www.foejapan.org/infomation/news/110419_o.pdf

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..