記事のポイント
- 同志社大・社会価値研究センターがサステナ報告の価値測定をテーマに講演
- 同組織はステークホルダーへの影響を測るバリューモデルを開発する
- 須貝フィリップ教授はサステナ経営に向け「三方よし」などを紹介した
同志社大学社会価値研究センターが、企業が主要なステークホルダーに与える影響の価値を測定・管理する「バリューモデル」の開発を続けている。このほど開いた講演会で須貝フィリップ教授・同センター長は、「自社と関わるステークホルダーへの影響を考慮し、ともに繁栄できる形で成長してこそ、社会に価値を創出する」と説いた。(北村佳代子)
「世界で200年以上続く企業の56%が日本企業だ。17世紀もの昔に『三方よし』の精神がこの国で生まれたことを考えると、この数字は驚きではない」
須貝教授は2月4日、同大学が東京で開催した講演会「SDGsとサステナビリティ報告の未来に向けた価値の測定」で、「買い手よし、売り手よし、世間よし」で知られる近江(滋賀県)商人の「三方よし」を外国人参加者らに紹介した。「三方よし」は、今も伊藤忠商事や丸紅など、近江商人に端を発する企業を中心に引き継いでいる。
須貝教授は、自身が合気道を修得する過程で触れた武道の精神「精力善用・自他共栄」の考えも、企業のサステナブル経営に通ずると考える。
「ステークホルダーとの関係において、企業経営者には二つの哲学的な選択肢がある。一つはボクサーのように、相手(ステークホルダー)を打ち負かし、その犠牲のもとに自分だけが勝者となることを目指す道だ」
「もう一つは合気道のように、組み合った者(自社とステークホルダー)同士がともに成長し繁栄する姿を目指す道。後者の哲学を選ぶ企業は、ステークホルダーとともに切磋琢磨する。そのことが社会に、非常に大きな価値を生み出すことにつながる」
■サステナビリティ報告と「ウォッシュ」回避に役立つモデルを開発
企業のサステナビリティを示す非財務情報については現在、GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)など、複数の国際機関による報告枠組みがある。
社会価値研究センターは、こうした世界的に影響力の大きい25の報告枠組みから、これまでに企業価値に影響力のある926の指標を収集した。その上で、ステークホルダーを自社、顧客、従業員、パートナー、株主、地域社会、地球環境の7つに分類し、27のテーマ、81の目標から成る「バリューモデル」を開発する。
このモデルによって、企業が主要なステークホルダーに及ぼす影響の価値を客観的かつ総合的に測定・管理できる。そのため、企業の「ウォッシュ」回避にも活用が期待できるという。
「ある企業がカーボンニュートラル目標の前倒しを発表したとする。それ自体は素晴らしい。だが同じように価値のある、プラスチック汚染や騒音公害の対応について、報告しないで良いということではない」(須貝教授)
ゲストスピーカーで登壇したWICI(世界知的資本・知的資産推進機構)グローバルのマリオ・アベラ会長は、「企業にとって、報告自体はコストでしかない。だが、ビジネスを続ける上では必要なコストだ」と言う。
「今後、サステナビリティ報告の制度化の波が訪れる。しかし、企業のゴールは報告ではなく、社会・環境課題の解決だ。そのゴールに照らし、企業が多様な非財務情報を整理・収集する上で、このバリューモデルはとても有用だ」(アベラ会長)