「町民は毎日線量を気にしながら生活」――福島県塙町・菊池町長語る

福島県塙町の菊池基文町長(福島県町村会ウェブサイトから引用)

「何か悪いことでもしたのか。私たちはモルモットじゃない」。自主避難などにともなう政府の賠償指針の対象からもれた福島県の26市町村の一つ、塙町の菊池基文町長は26日、本誌の電話取材に応じ、東京電力福島第一原発事故にともなう政府や東京電力などの対応を厳しく批判した。

菊池町長は25日、26自治体の首長で構成する原子力損害賠償対策本部の訪問団の一員として東京電力本店を訪れた際、同町が加盟する衛生組合のし尿処理場で出た焼却汚泥をドクロマークが描かれた容器に入れて持参。汚泥からは1キログラム当たり8000ベクレルという高い放射線量が検出されており、町長は東電の役員に直接手渡した。

菊池町長は「被ばく線量が年間1ミリシーベルトで線引きされてしまうが、1ミリを超える、超えない、の差は一体何なのか」と、政府の原子力損害賠償紛争審査会が定めた賠償基準を批判。「東電、国、地元選出の国会議員は審査会の指針を踏襲するばかり。『何か文句あるなら裁判でどうぞ』という高圧的な姿勢を感じるが、裁判では勝てない」と憤る。

その上で、汚泥を持参した理由について「地方自治体は立場が弱い。時間が経てばこの問題が風化してしまう、私たちの立場が忘れ去られて欲しくない、との思いで行った」と述べた。

「福島は一つなんです」と菊池町長は言葉を続ける。しかし東電原発事故がもたらした分断は、賠償をめぐる自治体の線引きにとどまらず、地域や家庭の中にまで及んでいる。「東電や国に対して言いたい。あなたがたは福島に住んだことがないでしょう、と。町民は毎日何シーベルト、何ベクレルと放射線量を気にしながら生きている。子どもの内部被ばくを避けるため、子どもとお年寄りとで食卓を別にしている家庭も多い」

事故から10カ月が経過しても、収束への道筋は不透明だ。「事故が起こったのは仕方ない。しかしもっとスピード感をもって解決しないと。オウムはサリンをまいて死刑になったが、(今回の原発事故では)誰一人として罪に問われていない」。菊池町長の言葉に無念さがにじむ。(オルタナ編集部=斉藤円華)2012年1月26日

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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