記事のポイント
- 鎌倉にオープンした「えしかる屋」は、エシカル商品のセレクトショップだ
- 衣類やアクセサリーなど国内外のエシカル商品をそろえる
- 背景には、大量生産・大量廃棄の経済活動への危機感があった
2021年に鎌倉でオープンした「えしかる屋」は、エシカル(倫理的)商品のセレクトショップだ。「エシカルを日常へ」をコンセプトに掲げ、衣類やアクセサリーなど国内外のエシカル商品をそろえる。プロデューサーの稲葉哲治さんは「大量生産・大量廃棄で消えてしまった消費行動の『人間性』を取り戻さなければいけない」と語る。(ライター・遠藤一)

鎌倉の名所、鶴岡八幡宮にほど近い住宅街の中に「えしかる屋」がある。「高品質で、作り手の想いが伝わる」エシカル商品に限定したセレクトショップだ。
インドの伝統的なブロックプリントが美しい服、海辺に流れ着く廃プラスチックでできたアクセサリー、廃タイヤから作られた頑丈でシックなビーチサンダル。店内には色とりどりの服飾、アクセサリーやグッズ、食品などが並ぶ。
■来るたびにラインナップが変わる楽しさ

ラオスのオーガニックコットンから作った衣類・布製品たちのフェアも好評だった。コットンから糸を紡ぎ、ラオスの様々な少数民族の手織り、手染め法で、ポーチやブックカバー、衣類などに仕立てたものだ。
障がいがある女性たちを支援するNPO「Support for Woman’s Happiness」が、ラオスで自立支援として制作・販売したものだ。カラフルながら落ち着いた色合いや、手織りの品質が人気だ。
店舗を訪れていた近所の常連の人は、「『えしかる屋』は、来る度にラインナップが変わり、子どもも来たがるくらい飽きない」と話す。
■「社会的弱者」と呼ばれても「社会の資産」
「えしかる屋」プロデューサーの稲葉哲治さんは、東京・新宿育ちで「海外出身の人、障がいがある人、貧しい人、社会的に取り残されがちな人も多くいる地域で育った」と言う。
東京大学に進学するも、学内の思想対立や、2001年の同時多発テロ事件に「人と人とが分かり合えない時代に、エリートとして生きていく意味があるのか」と、社会に希望を見出せなくなってしまった。
その後中退し、約3年間ひきこもり状態に。社会復帰のためコンビニで働くと、スタッフ管理などを通じて「人を育てる」面白さに気付いた。
その後はセゾングループの人材紹介業へ転職し、NPOと連携したひきこもりやシングルマザーの就職支援などを行い、「社会的弱者と言われる人も、社会の資産だと学んだ」と言う。
その後、フィリピン少数民族からインスパイアされた竹アクセサリーを販売する「EDAYA(エダヤ)」の手伝いを始めたことがきっかけで、フェアトレード・エシカルへの関心を高めた。
一方、オーナー店長の黒崎りえさんは某大企業勤務を経て、フリーで翻訳や研修講師などを務めてきた。夫の駐在先のインドネシアで、現地民の経済格差に衝撃を受けた。フェアトレードの製品に出合ったものの、素敵な伝統工芸品でも、すぐに壊れてしまい、品質での問題を目の当たりにもした。
帰国後、当時大学生の娘の紹介でエシカル商品のセレクトショップ「エシカルペイフォワード」で働くことになった。2020年に経営していたNPOの都合で閉店することになったが、黒崎さんは「ここで終わらせられない、続けていかなければ」と独立を決意。エシカルペイフォワードで知り合った稲葉さんに声をかけ、2021年に「えしかる屋」をオープンした。
■大量生産・廃棄の時代、「エシカル」で人間性取り戻す

「えしかる屋」はどうしてエシカルにこだわるのか。
稲葉さんは「現在は、大量生産、大量廃棄の時代。買い物からも『人間性』が失われてしまっている。顔や背景が見えるエシカル製品を通じて、人とのつながりや自分らしさを取り戻してほしい」と力を込める。
「すべての人は、何かしらモノを買う『購買者』だ。買い物をするということは、自分はどういう人間か、どんな未来を望むのか、考えるということでもある。主体的にモノを選ぶ、買うことが『未来づくり』になるという考え方を広めたい」(稲葉さん)

一方で、各種調査で、消費者の「関心」と「行動」にはギャップがあることが分かっている。かねてから「エシカル商品は売れない」という言説もある。
しかし、稲葉さんは「今は安易にはモノが売れない時代。だからこそ、生産の背景や独自の感性、こだわりがあるものが、選ばれるようになる」と言う。
黒崎さんによると、売れ筋の物は、「服なら、素材やデザインが良く、縫製もしっかりしていることに加え、誰がどう作っているかが見えていて、オリジナリティがあるもの」だと言う。そういったものが「結果としてフェアトレードになっている」。
「品質とストーリーは一体化していて、分けては考えられない。クオリティーが高くて良いものは、必然的にエシカルなものになる。誰が作っているかが分からない量産品は、当店では支持されない」(黒崎さん)
えしかる屋のテーマは「エシカルを日常へ」だ。誰もが自然とエシカル消費を実践できるヒントが「えしかる屋」から見えてきた。