「耐えがたい」食料廃棄の現実 怒れるヨーロッパの取り組み

毎日大量に捨てられている食品 (写真提供: WRAP)

食事の食べ残し、腐った野菜、賞味期限切れのヨーグルト。世界中の家庭で、レストランで、スーパーで、食品が毎日「ゴミ」になっている。先進諸国で長年看過されてきた食料廃棄だが、ヨーロッパではこのところ食料廃棄撲滅の機運が急激に盛り上がっている。先頭に立つのはドイツだ。

■ 独 年間約1100万トンの食料が廃棄、政治的課題に

「耐え難い数字です。信じられないほど大量の食品が捨てられている」。3月半ば、ドイツ消費者保護省のイルゼ・アイクナー大臣はこう言って怒りを露(あらわ)にした。同省が作成した食料廃棄実態報告書の記者発表の場だ。

報告書によると、ドイツでは生産から最終消費までの間に年間約1100万トンの食料が廃棄されている。その61%は各家庭で、17%は生産加工段階または外食産業で、5%は流通段階で発生する。品目では野菜、果物、パンがトップで、国民1人あたりでは年間82キログラム、金額にして同234ユーロが無駄になっている計算だ。

同相は「いまや食べ物の浪費に対する闘いは政治的課題です」と明言、報告書発表と同時に、一般消費者向けの啓蒙キャンペーン“Zu gut für die Tonne”(「捨てるには良すぎる」)をスタートさせた。消費者が誤解しがちな「賞味期限」の解釈や食品保存の方法などを説明するフライヤーを全国のスーパーに配布している。

同相は「商店で売れ残りの食品をなぜ店員に無料配布しないのか」と、これまでタブーだったテーマにも言及、規格外青果の廃棄を定めたEU指令緩和のため、欧州委員会にも働きかける意向だ。

一方、そのEUでも食料廃棄に対する問題意識が高まっているのは同じである。EU内では年間総計9000万トン、1人平均廃棄量180キロという数字が発表されているが、一方では域内で1600万人が定期的にフードバンクを利用するという。欧州議会のサルバトーレ・カロンナ議員(イタリア)は「もう手をこまねいて見ていられない。食料廃棄は倫理だけでなく、経済的、社会的な問題だ」と議会で力説した。

■ 2014年は「欧州の食料廃棄反対年」に

食料廃棄削減に乗り出したドイツのイルゼ・アイクナー消費者保護相(写真提供 :Guido Bergmann / Bundesregierung)

同氏は欧州委員会に加盟27カ国の共同戦略策定を要求、委員会はこれを受けて2020年までに食料廃棄量を半減する目標を設定した。

さらにプロジェクト実行母体として「フュージョンズ」(FUSIONS “Food Use for Social Innovation by Optimising Waste Prevention Strategies”)を設置、加盟各国の支部で食品関連団体、政府、NPO、研究機関などと連携し、モニタリングや具体的措置の策定を6月から開始する。2014年は「欧州の食料廃棄反対年」になる予定だ。

食料廃棄は、サプライチェーンの各段階において、別々の理由で発生する。生産段階では収穫過多、形やサイズが規格に合わないなどの理由で食料が選別処理される。加工段階では製造プロセスのエラー、流通段階では輸送上の欠陥や店頭での売れ残りが理由である。

そして各家庭では無計画な買い物と調理、「賞味期限」と「消費期限」の取り違えなどにより食品が捨てられる。

国際連合食糧農業機関(FAO)の2011年の調査によると、全世界では、人の消費向けに生産された食料の3分の1にあたる年間約13億トンが廃棄されている。特に先進国において消費段階で発生する廃棄率が高く、その廃棄量(2億2200万トン)は、サハラ以南アフリカの食料純総生産量(2億3000万トン)とほぼ同量というから驚く。

ちなみに日本では2008年時点で年間1900万トンが廃棄され、その半分以上が一般家庭で捨てられている(農林水産省調べ)。

■ 回収した残飯を堆肥化し再利用するプロジェクトも

「残さずに食べなさい」は、どの国でも子どものしつけの基本。でも、それ以前に「お皿に盛り過ぎない」「料理をつくり過ぎない」「材料を買い過ぎない」ことを大人の1人1人が実践すれば、大きな効果が生まれるだろう。

一方、サプライチェーンの川上にある生産、加工、流通段階で廃棄率を下げるのは、経済原理やビジネスモデルに関わるだけに複雑だが、不可能ではない。たとえば英国WRAPの活動が良い例だ。

WRAP(Waste Reduction Action Plan) は、ゴミ削減と資源の有効利用を目的に2000年に設立された非営利団体である。自治体、メーカー、小売業者、大学などと連携する横断的ネットワークを構築し、研究開発やコンサルティングを行って成果を上げている。

今年初めには英国環境省から50万ポンドの助成金をとりつけ、レストランやケータリングの残飯を回収して嫌気性消化または容器内堆肥化によって再利用する3年間のプロジェクトをスタートさせた。“Love Food Hate Waste“のスローガンのもと、EUとのパイプづくりも着々と進んでいる。

食料廃棄はつまるところ、土地やエネルギーの浪費であり無意味な二酸化炭素排出にもつながる。今後、高いCSR意識を持った企業がサプライチェーン全体から多数参加して、世界規模で成果が生まれることを期待したい。(独デュッセルドルフ=田中聖香)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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