「再稼働で福島県民は見捨てられた」、福島原発告訴団団長の武藤類子さん

武藤類子さん。喫茶店だった「きらら」(福島県三春町)で

東京電力福島第一原発事故の刑事責任を問うため、県民1324人による福島原発告訴団は6月12日、公害罪と業務上過失致死傷容疑で東電幹部や原子力安全委員会など国の機関の関係者、県放射線健康リスク管理アドバイザーら33人に対しての告訴状を福島地検に提出した。同告訴団の団長である武藤類子さんに話を聞いた。

武藤さんは、福島第一原発から西へ45キロ離れた三春町で喫茶店「きらら」を営んでいた。庭で野菜をつくり、山からどんぐりを拾って調理するなど、自然に寄り添った生活をしていた。ソーラーパネルで電気を作り、発電量に応じて消費量を調節するのも、知恵を使うようで楽しかった。

しかし、福島原発の事故がすべてを奪った。野菜や木の実が食べられなくなり、窓を開けられなくなった。暖炉で薪を燃やせなくなり、石油やガスの暖房に変えた。外に出ることが減り、葉っぱを触ったら手を洗うようになった。現在、周辺の線量は0.2から0.3マイクロシーベルトくらいだ。

武藤さんは「自分が目指していたものと違う生活になった」と悲しみを語る。カフェオレやココアなど乳製品を使った飲み物を出すことに抵抗を感じた。安全かわからないものをお客さんに提供して良いのだろうかと思い、事故後、店を開けていない。

武藤さんは2010年、当時の知事がプルサーマル運転の受け入れを決めてから、「ストップ プルサーマル」の勉強会をしたり、若い人やさまざまな人をつなぐ役割を担っていた。稼動40年を迎えた福島第一原発一号機の10年延長が決まったことを受けて、廃炉を求める「ハイロアクション」も始めた。

ところが、2011年3月に事故が起こった。2011年9月19日の「9・19さようなら原発5万人集会」での武藤さんのスピーチは、福島の怒りを表し、多くの人の心を揺さぶった。

福島原発告訴団の団長を引き受けたのは、素朴な疑問からだった。

多くの人々が不自由な生活を強いられるなか、東電はなぜ自ら除染しないのか。賠償の条件をなぜ東電が決めるのか。福島原発事故の責任の一端を担う原子力安全委員会がなぜ大飯原発再稼動を決められるのか。情報がなく、市民が不用意に被ばくすることになったのはなぜか。はっきりとした責任の所在を明確にせず、進展はあり得ない。

県内の分断も心配だ。すべてが収束したかのように復興キャンペーンが展開され、原発は安全だとの刷り込みが再びなされている。人々は不安がっている。情報に振り回され、周りの目を気にし、すべてのことに選択を強いられる。食べるのか食べないのか、逃げるのか留まるのか。

そんなときに、「大丈夫、心配ない」という声を信じたくなるのが人情だ。だからといって、子どもを被ばくさせて良いのだろうか。鼻血や頭痛がひどくて病院に行っても「気のせい」で片付けられ、心理カウンセラーを呼ぼうかとさえいわれる。

告訴団には老若男女さまざまな人がいる。「育てた野菜を孫に食べさせられなくなった」「自分たちの後始末は自分たちの世代でするべき」という年配者をはじめ、子どもの健康を気遣う母親たちや、転校を強いられた小学生の子どももいる。

武藤さんは、「福島の現実を前に、再稼動することが信じられない。『国民の生活を守るため』というが、そこに福島県民は入っていないのだろう」と話す。

8月1日に告訴が受理され、一歩前進した。今後は全国から県外告訴人を募り、11月には第二次告訴を予定している。9月22日にはいわき市文化センターで、福島原発告訴団の全国集会を開く。本当の戦いはこれからだ。(田口理穂)

◆福島原発告訴団のサイト

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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