コメを食卓の中心に、パルシステムが仕掛ける「くらし直し」

1965年に73%だった食料自給率はいまや39%にまで落ち込んでいる。自給率を高め、持続可能な社会を次世代に手渡そうと、パルシステム生活協同組合連合会は「100万人の食づくり」運動を展開している。商品本部の栗田典子副本部長は、コメを中心とした食生活と、生産者と消費者とが結び付き、食を物語化していくことの大切さを説く。(聞き手=オルタナ編集長・森 摂)

商品本部の栗田典子副本部長

――「100万人の食づくり」について教えて頂けますか。

パルシステムが2008年に始めた食料自給力を高める運動です。当時、組合数が100万人になったこと、また100万人が動けば、世の中を変えるインパクトを持つという意味も込めています。

――世の中の1%ですね。

私たちの大きな仕事の一つは、産直という事業モデルを通じ、生産者と消費者を結び付けることです。私たちは、状況を改善するために、食べ物の先にある生産地の物語を見せるようにしています。

もう一つは、「食べる側」からの変革を起こすことです。これを「くらし直し」と称していますが、今年は、新米の時期にコメを軸とした「食から社会を変える」市民運動を巻き起こしたいです。

■ 食の欧米化に対抗、日本のダシ文化

――コメが一つのキーワードなのですね。運動のゴールは何ですか。

2000年に突入したあたりから、グローバル化と経済原理の中に食べ物も組み込まれ始めました。「食べること」と「食べ物をつくること」の乖離は進む一方です。「食べること」は命を繋ぐこと。その部分がしっかりしていない国には、未来がありません。国づくりの土台に農業や漁業は不可欠です。

日本人は、主にコメからエネルギーを摂取してきました。近年、日本人の総エネルギー摂取量は減っていないにもかかわらず、コメの消費量は減っています。その分、増えたのが、油脂と畜産物。食の欧米化です。

油脂は旨み成分を多く含み、摂取すると脳に快感物質が分泌されます。若い時期に慣れてしまうと、元の状態に戻りにくくなります。それに対抗できるのが日本のダシ文化です。カロリーは低いのですが、旨みが非常に強い。油脂ほどではないにせよ、快感物質が脳内に分泌されるそうです。コメとダシは日本の食卓の強力な組み合わせです。

――いわゆる「食育」ですね。

私たちは、10年ほど前から、「手作りってかっこいい」という風潮を生み出そうと頑張ってきました。梅干に関しては、電話相談窓口まで設置したほどです。ここ数年は、組合員に、手作りした梅干を送ってもらい、梅の生産地の小田原で品評会を行っています。

若いお母さんから高齢の主婦まで、幅広い世代からの応募があります。地味な台所仕事にスポットライトをあてようという試みですが、物を買うだけでは、幸せになれないと思っている人が増えてきた証拠だと思います。

――そういった人々が自分の生活のあり方を見直してくれれば良いですね。

夫の収入増が見込めない時代になり家事も仕事も担当する女性の負荷は高まる一方です。だからといって食事に関して心から手を抜きたいと思っているかといえばそうともいえない。台所は、創造的な仕事が残されている数少ない空間です。ゆっくり料理ができると精神的に充実する、と感じる人はたくさんいます。

そこで、食事の基本形をシンプルに考えよう、と提案しているのが、コメを中心にダシのきいたみそ汁とおかず2品を組み合わせた「一汁二菜」。日常が整うと余裕が出てくるので、あとは季節や暦にあわせ手づくりを楽しむ。そんな食のあり方への共感が広がっています。

――東日本大震災の経験、とくに放射能の問題に直面し、どのようにからだを守っていくか多くの人が意識するようになりましたね。

日々の食事やくらし方の積み重ねが体をつくる、という基本に立ち返る必要があります。鍵を握るのは免疫力。免疫力は交感神経と副交感神経のバランスが決め手となります。

過緊張が続き交感神経が活発になりすぎている大人に対し、常に「快適」な環境で育ってきたいまの子どもは副交感神経が働きすぎています。神経のバランスを整えるには早寝早起き、そしてできるだけ自然に触れること、食事はよく噛むこと、これらが重要です。

コメは「粒食」で、咀嚼を必要とします。私たちの祖先が築いてきた食文化、そして自然環境や田園風景を守り育んできた農村文化を手放すのはたいへんもったいない話です。

――「手作り」には、プレミアム感がありますね。

アウトソーシングされてしまった「食」をもう一度、自分たちの手に取り戻すことが必要です。かつて、中国から輸入された餃子に毒物が混入していた事件が起こりました。大変な問題ですが、輸入餃子が、現在のような価格で売られていることに疑問を覚えず、事件だけ騒ぎ立てる風潮も見直す必要があると思います。

近代農業は合理化をひたすら推し進め、いかに安く、たくさん作るかが命題でした。環境影響は蔑ろにされてきました。パルシステムは、本当に持続できる食生産とはどういうことか、消費者と生産者が徹底的に話し合い合意形成を行っています。結果として定めている独自の栽培基準は、生産者にとってはリスクの高いものです。

それを買い支える仕組みが「予約登録米制度」です。一年間、コメの買い取りを保証する代わりに、環境負荷の少ないコメを生産してもらうのです。生産者と組合員が「安定的に作り」「安定的に頂く」関係を結ぶことができます。

ホームページでは「2012お米アクション」を展開中。若手米生産者を紹介する「田んぼのイケメン調査」も。公式フェイスブックページでは、「たんぼの生きもの診断」アプリを展開している

■ ソーシャルメディアで生産者と消費者つなぐ

――生産地と消費地を結ぶのと同時に、そうした新しい価値観を広げていくこともパルシステムの重要な役割ですね。

その上でも、ソーシャルメディアには可能性を感じています。ソーシャルメディアは、単なる伝える手段ではなく、交流の場です。人は「こうあるべき」と教条的に言われると受け入れにくいものですが、それぞれが気軽に思いを持ち寄り、共感しあうことで行動が生まれてくる。それが社会のうねりをつくっていく。そのことを実現できる場です。

この秋に展開していく「お米アクション」では、「〝ごはん〞でしあわせ!」をキーワードに、さまざまな企画で日本人にとってコメが欠かせないものであるという実感を引き出していきます。これによって、コメの消費を増やし、コメを食べることの向こうに豊かな田んぼの風景や棲息する生きもの、コメづくりに励む生産者を想像できる消費者を増やしていくことを目指しています。

食をめぐる世界的な状況をとらえると悲観的になりがちですが、「食べること」は、すべての人にとってごく身近にある関心事であり、幸福にする力を持っています。パルシステムは「食べること」を通じて人と人をつなぎ、持続可能な社会づくりに挑戦していきます。

◆パルシステム生活協同組合連合会

◆「2012パルシステムお米アクション“ごはん”でしあわせ!」

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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