2004年12月に設立された株式会社オトバンク(東京・文京)は、350社以上の出版社と提携し、日本最大のオーディオブック配信サービス「FeBe」(フィービー)でのオーディオブック販売、オンラインブックガイド「新刊JP」を中心とした書籍のプロモーション事業などを行っている。オーディオブックとは、商業出版された本を朗読し、音源データ化したものだ。(フリーライター=今一生)
本の著者がオトバンクに著作物の音声化の権利を委託すると、同社は著作者の代わりに出版社とのオト化(映像や文字などのコンテンツを音声コンテンツに再構成すること)の権利交渉を行う。
出版社と著作者には二次利用によって得られた運用益が還元される。こうすることで、さまざまな本を音声情報として利用者に届けられるだけでなく、出版文化にも寄与できる。
オーディオブックは、通勤時間にイヤホンで聞けるため、目が疲れない。家事をしながらでも、ウォーキングやランニング中でも「読書」を楽しめる。手がふさがっている農作業の最中でも「読む」ことができるのだ。
この音源化ビジネスは、現・会長の上田渉氏の祖父が緑内障で失明していたことに端を発するという。
オトバンク広報部によると、「最初は朗読のボランティアなどを行うNPOを考えていましたが、誰もが使える社会インフラとして音源を増やす方が貢献できると考え、株式会社の事業にしたのです」と言う。
すでに登録会員は11万人、音源化された書籍は1万点に上る。どの本を音源化してほしいかのニーズについては、リクエストも受け付け、音源化できるものから出版社との交渉を始める。
「リクエストは、メールやSNSで受け取っています。障がい者の団体と話す機会にも、意見を伺っています。文芸作品ですと点字図書館で読めることも多いのですが、ビジネス書があまりないので、当社ではビジネス書も増やしています。『今まで読めなかった本が読めて、仕事にもつながって世界が広がった』、『視覚障がい者の自立支援につながるのでありがたい』などの声をいただいています」(オトバンク広報部)
書籍の音源化は、本の新しいプロモーションになるだけでなく、出版社の新しい収益源にもなる。数年前に出した本が売れていくきっかけにもなる。ネット上の販売しているため、日本語を聞いて理解できる世界中の人々にも訴求力があるかもしれない。
「古典的なものも好まれる傾向があるので、過去の名作も音源化していきたい。ベストセラーがそろっている書店にしたいです」(オトバンク広報部)