本誌81号第一特集「反ESGでも変わらないもの」

記事のポイント


  1. 米国では、ESG(環境・社会・ガバナンス)に対する逆風が強まっている
  2. 保守派は、気候変動対策やDEI施策を政治問題化し、「行き過ぎだ」と批判
  3. しかし、企業は「責任ある経営」を続けることが求められている。

米国では、ESG(環境・社会・ガバナンス)に対する逆風が強まっている。保守派は、気候変動対策やDEI(多様性・公正性・包摂性)施策を政治問題化し、「行き過ぎだ」と批判。社会の分断と対立を招いている。しかし、企業は一時の空気に惑わされることなく、「責任ある経営」を続けることが求められている。(オルタナ輪番編集長・吉田広子、池田真隆、北村佳代子、副編集長・長濱 慎、在ニューヨーク・古市裕子)

「大学のキャンパスは、いまや米国社会の分断の最前線になった」。そう語るのは、2025年5月に米コロンビア大学大学院を修了したばかりの熊﨑雄大さんだ。

トランプ政権は25年3月、ハーバード大学やコロンビア大学などに対し、連邦政府の連邦助成金の凍結を明言した(23ページ参照)。6月には米教育省がコロンビア大学に連邦法違反を通告。自由な言論空間であるはずのキャンパスが、政治の圧力にさらされている。

コロンビア大学大学院の修了式には約1万6千人の学生が出席した。式典では、トランプ政権への抗議のブーイングが鳴り響いた。 

「政府は『安全保障』を名目に、不都合な表現や思想を排除し、学問の自由が危機に直面している。DEIを『能力なき者への優遇』と非難し、反虐殺を訴える声すら『親ハマス』とレッテルを貼る。この単純化は、まさにファシズムを想起させる」。熊﨑さんは非難した。

■未だかつてない強い「揺り戻し」

米国はこの10年、気候変動対策やDEI領域で、進展と揺り戻しを繰り返してきた。進展すればするほど、強い反発も生まれた。逆もまた然りで、逆風に対して立ち向かう動きも力強く広がっていった。

第1次トランプ政権は2017年6月、パリ協定からの離脱を宣言した。これに反発し、企業や自治体、投資家、教育機関など1200以上の団体は連帯し「ウィ・アー・スティル・イン(私たちはパリ協定にとどまる)」を発足。官民連携による気候行動の象徴となった。

20年5月、米ミネソタ州ミネアポリス近郊で、アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんが、警察官による不適切な拘束で命を落とした。この事件を機に、BLM(黒人の命は大切だ)運動が全米に広がり、DEI推進を後押しした。

ナイキやコカ・コーラなどの米大手企業は、人種平等を訴える広告キャンペーンを展開し、DEIを企業戦略の中核に据えた。この流れは日本にも波及し、ダイバーシティ推進や人権尊重を重視する動きが広がった。

しかし今、揺り戻しの力は、かつてなく強まっている。トランプ大統領は、第1次政権時からESGやDEIに批判的だったが、議会や司法の制約があり、当時は一定の抑制が働いていた。だが、第2次政権発足後は、より強引な手法で政策転換を進めている。

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yoshida

吉田 広子(オルタナ輪番編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。2025年4月から現職。執筆記事一覧

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キーワード: #ESG

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