サントリー、「炭素税導入なら生産コスト350億円増」と予測

記事のポイント


  1. サントリーは炭素税の導入で2050年には生産コストが350億円増と見込む
  2. 1.5℃シナリオで国際機関が予測した炭素税価格をもとに試算した
  3. 同社では1000億円規模の投資で脱炭素が経済合理性を持つ時代に備える

サントリーホールディングスはこのほど、自社に重要なインパクトを及ぼすサステナビリティ課題を特定し、その課題による「財務的リスク」を定量化した。気候変動と自然資本を統合して重要課題のリスクを分析した結果、日本が炭素税を導入すると2050年には生産コストが350億円増えると試算した。同社は2030年までに1000億円規模の投資を行い、脱炭素化を推進する。(オルタナ輪番編集長=池田真隆)

サントリーホールディングスはサステナビリティ課題の財務的リスクも定量化した 参照:同社サイト

サントリーホールディングスは7月31日、自社にとってのサステナビリティ課題のインパクトやリスクなどを公表した。サステナビリティ課題のインパクトやリスクを開示する企業は増えてきたが、サントリーは、「統合的アプローチ」と呼ばれる手法で行った。

統合的アプローチとは、気候変動と生物多様性など自然資本を統合した形で開示する方法だ。気候変動は国際的なフレームワークTCFDを、自然資本はTNFDを参考にした。気候変動と自然資本を分けて開示する企業が多いが、気候変動と生物多様性は表裏一体の関係性で企業には統合的アプローチでの開示が求められている。

水不足による機会損失額は260億円に

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同社が特定したリスクの中で、財務的リスクを定量化したものが3つある。一つは炭素税の導入によるコスト増だ。パリ協定で定めた「1.5℃目標」に向けた排出削減が進んだ社会で、日本が炭素税を導入した場合、生産コストは2030年に190億円、2050年には350億円増えると試算した。

日本では炭素税の導入は決まっていないが、2028年度から、化石燃料の輸入事業者やCO2排出量の多い発電事業者などに「炭素賦課金」の支払いを義務付ける。

工場など生産施設周辺地域の過剰取水や干ばつの増加に伴う「水不足」の財務的リスクも定量化し、機会損失コストとして260億円と試算した。その他、気候変動の影響で栽培適地移動などによる調達リスクとして、30年には調達コスト59億円増、50年には80億円増と見込んだ。

サステナ課題の財務への影響を定量化へ

同社はインパクトやリスクの開示に当たり参考にしたのが、「気候移行計画」「自然移行計画」と呼ぶフレームワークだ。同計画は、サステナ情報開示の分野では最重要キーワードの一つだ。

自社が掲げたサステナ目標の達成に向けて、現状の企業経営からどのような経路で「あるべき姿」に変革するか、期限を定めた計画だ。定量的なKPIをもとに進捗状況を評価できるようにすることも求められる。

同計画の策定において重要なのが、財務諸表との関連付けだ。同計画を経営戦略に組み込んだ上で、そのリスクと機会が財務に与える影響額を定量化することが必要だ。

同社は今回、統合的アプローチの手法で、リスクと機会をより明確にした。2030年までに脱炭素の促進に向け、1000億円規模の投資を見込む。自社で定めたインターナルカーボンプライシング(8000円/トン)を投資判断の基準に置く。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #生物多様性#脱炭素

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