記事のポイント
- 「食品ロスは経済のための必要悪だから減らせない」と主張する声が聞かれる
- だが、食品ロスを減らしながら売上を維持・増加した事例は多々ある
- 英国ではロス削減に1ドル投資で14ドルのリターンを得られるとの検証結果も
「食品ロスは経済のための必要悪だから減らせない」という意見を聞く。だが英国では、企業が食品ロス削減に1ドル投資することで14ドルのリターンを得られたとの検証結果もある。10月は食品ロス削減推進法で定めた「食品ロス削減月間」でもあり、食品ロスを減らしながら売上を維持・増加した企業の事例を紹介したい。(オルタナ客員論説委員・井出留美)

以前、Yahoo!ニュースエキスパートに「『食品ロスが多ければ多いほどその国は豊か』なのか?」と題した記事を書いたところ、コメントに「食品ロスは必要悪」だと書かれていた。
「食品ロスを減らすと売上が縮むから減らしてはいけない」といった意見を主張する人は以前から散見される。
食品ロスを減らしても売上が保てる事例を紹介したい。
■事例1:食品廃棄を減らし、コスト削減で利益率アップのスーパー
岡山県を拠点にし、中国・四国地方でスーパーマーケットを100店舗以上展開しているハローズは、食品の廃棄率を約0.4%削減した。たった0.4%だが、その結果、8億円のコスト削減に成功し、利益率も上昇した。
見切り(値引き)販売や、余剰食品の寄付などを効率的におこない、食品ロスを年々減らしている。
ハローズは、食品ロス削減の効果が認められて、令和2年度食品ロス削減推進大賞を受賞した。
■事例2:消費期限まで販売し食品ロスを減らし売上を増やしたスーパー
食品業界では通例だが、商品棚にある食料品は、賞味期限・消費期限ギリギリまで販売しない店がほとんどだ。食品業界の商慣習3分の1ルールにより、その手前に「販売期限」が設けられ、販売期限が来たら棚から撤去し処分する。
そこで京都市と、市内のスーパー、平和堂とイズミヤは、日持ちしづらい日配品15品目について1ヶ月間の実証実験をおこない、消費期限ギリギリまで販売したら食品ロスと売上がどう変わるかを検証した。
その結果、食品ロスは10%削減し、売上は5.7%上昇した。
■事例3:廻さない回転寿司で食品ロス削減、売上20〜50%増
ある回転寿司チェーンでは、作ってレーンに載せる仕組みを止めた。数回転させるとネタが乾いて廃棄になるためだ。
そこで、客が注文してから作ってレーンに流すシステムに変えたところ、その店舗では食品ロスが減り、売上が20〜50%上昇した。
このチェーン以外でも、食品ロス削減に向けて「廻さない」回転寿司が増えてきていることを読売新聞が報じている。
■事例4:2015年からパンを捨てず、二人で働いて年商3,300万円のパン屋
広島のブーランジェリー・ドリアンは、毎日ごみ袋2杯分のパンを捨てていた。そこでパンの種類を40数種類から4種類に絞り、ハード系のパンのみにした。主原料の小麦は国産有機小麦にし、その代わり、チーズなどの副原料のコストを削減させてまかなった。レストランなど法人向けに絞り、消費者は定期販売にした。
その結果、2015年秋から廃棄はゼロになり、二人で働いて年商3,300万円を保ちながら休みは増え、まとまった休みも年に1ヶ月取得することができるようになった。
詳しい経緯については拙著『捨てないパン屋の挑戦 しあわせのレシピ』(あかね書房、2021年8月)に書いてある。
■食品ロス削減に1ドル投資すると14ドルのリターンが得られる
英国では、企業が食品ロス削減に1ドルを投資すると、さまざまな面で14ドルのリターン(利益)が得られるとの検証結果が得られている。
ロシアによるウクライナ侵攻後、ウクライナから小麦が輸出できなくなり、小麦価格が高騰し、その後、食料・肥料・飼料・燃料の価格が高騰し続けているのは周知の事実だ。
ひとたび戦争や紛争が起これば、食料輸出国から輸出できなくなる可能性があるし、金があっても物がなければ手に入らないのは「令和の米騒動」で実感したはずだ。気候変動により、コメの取れ高が少なくなった。異常なほどの高温や高水温、「百年に一度」「千年に一度」レベルの自然災害により、農産物や魚介類の入手にも影響が及んできている。
食料自給率38%の日本は、今ある貴重な食料を大切にしなければならない。
そして何より、日本では「食品ロス削減推進法」という法律が2019年10月1日から施行されている。すべての人は食品ロスを減らす責務があると法律に明記されている。
※この記事は、執筆者が2025年10月3日に「Yahoo!ニュースエキスパート」に掲載した記事をオルタナ編集部にて一部編集したものです。執筆者による過去の「Yahoo!ニュースエキスパート」記事はこちらから、執筆者のニュースレター「パル通信」はこちらからお読みいただけます。