「PHEVのCO2排出量は、ガソリン車と大差ない」:欧団体が報告書

記事のポイント


  1. 欧州の環境NGOは、欧州で登録されたPHEV 80万台の3年分の車載燃費計データを分析した
  2. その結果、PHEVの走行時排出量は、メーカーによる公式試験値の4.9倍だった
  3. ガソリン車比較での排出量は、75%減の想定に対し、実際は19%減に過ぎないという

欧州に拠点を置く環境NGOトランスポート・アンド・エンバイロメントは10月16日、欧州で登録されたPHEV (プラグイン・ハイブリッド車)80万台の車載燃費計のデータ分析結果を公開した。それによると、PHEVの実際の走行時のCO2排出量は、自動車メーカーの公式試験値の4.9倍だった。PHEVはガソリン車比較で75%の排出減を想定していたが、実際には19%減に過ぎず、「ガソリン車やディーゼル車と大差ない」と断じた。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

PHEVの実際の排出量が、公称値の約5倍であるとの調査が出た
(c) Transport and Environment

電気バッテリーと内燃機関の両方で走行できるPHEVは、自動車メーカーらが「完全なEVとは異なり、一回の充電で長距離を走行でき、同時にCO2排出量の削減もできる」として販売を推進してきた。

EUは2035年以降、販売する新車をゼロエミッション車に切り替える目標を設定している。これに対しては、自動車業界やドイツなどの一部のEU加盟国から、スケジュールや許容される技術の定義の見直しを求める声が出ている。

そのような中で、ベルギーに拠点を置く環境NGOトランスポート・アンド・エンバイロメント(T&E)は、「煙幕:PHEV車で増え続ける排出ガスのスキャンダル」と題する報告書を公開した。同NGOは30年以上にわたって、欧州の排出規制や車両基準の策定などの環境政策に影響を与えてきた。

■ガソリン車と比べ排出量は19%しか減っていない

T&Eは、欧州で登録された80万台のPHEVについて、2021年から2023年までの3年間にわたる車載燃費計データを分析した。

それによると、2023年にPHEVの実際の走行時のCO2排出量は、公式試験値の4.9倍に達していた。また自動車メーカーらは、試験値をベースにこれまでガソリン車やディーゼル車との比較で「排出量は75%減」を想定していたが、実際は19%減だった。

下の図は、欧州環境庁(EEA)が収集した車載式燃料・電力消費等測定装置(OBFCM:オンボード・フュール・コンサンプション・モニター)のデータ(報告年度は2023年)を基に、T&Eが分析したものだ。

図左の青い棒グラフは、公式試験値(WLTPベース)の排出量、図右のオレンジの棒グラフは実際の排出量だ。なおWLTPベースとは、乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法に則った世界で統一された測定方法のことを言う。

それぞれの棒グラフでは、左側が「ガソリン車とディーゼル車」で右側がPHEV車だ。「ガソリン車とディーゼル車」のグループには従来型のハイブリッド車(HEV)と内燃機関車(ICE)の両方を含む。

PHEVと、ガソリン・ディーゼル車の排出量の違いを示した図。
公式試験値は75%減としているが、実際の走行では19%減でしかなかった
(c) Transport and Environment

■公式試験値と実態とのギャップは拡大

また次の図が示すように、2021年から2023年まで、実際の排出量(青)と、公式試験値(オレンジ)との乖離幅は拡大している。2021年には、実際の走行時の排出量は、公式試験値の3.5倍だったのが、2023年には4.9倍に拡大した。

2021年から2023年の3年間で、公式試験と実際の走行時の排出量のギャップは広がっている
(c) Transport and Environment

報告書の共著者の一人、T&Eのソフィア・ナバス・ゴルケ研究員は、「走行時の実際の排出量は増加しているが、メーカーらの公式試験値は低くなっている。公式試験値と実態との乖離が拡大しているのは深刻な問題だ。PHEVによる汚染量はガソリン車とほぼ同等だ」と懸念を示した。

■「EVモードでの走行距離比率」の過大評価との指摘も

研究者らは、公式試験値と実態との間に乖離が見られる要因の大部分は、走行距離全体に占める「EVモードでの走行距離比率」の過大評価に起因すると指摘する。

T&Eによると、公式試験値では、EVモードでの走行距離比率は全体の84%と仮定を置いているが、実走行時のEVモードの走行距離は27%に過ぎなかった。

報告書はさらに、EVモードで走行中さえ、排出汚染レベルは、公式試験を大幅に上回ったと指摘した。研究者らは、「電気モーターの出力不足により内燃機関が作動するため、EVモードでの走行距離の約3分の1は、内燃機関が化石燃料を燃焼している」との分析を示した。

電気モード走行時は燃料費がかからないと思っているPHEVドライバーにしてみると、EVモードでも内燃機関が作動するため、追加で年間250ユーロ(約4万4千円)のガソリン代が発生することになる、と付け加えた。

■メーカーごとの分析結果も示す

T&Eは、メーカーごとの分析も示した。図は左から、メルセデス・ベンツ、日本車を含む「その他」、ルノーグループ、ステランティス、フォルクスワーゲン、BMWについて、2021年から2023年までの3年間で、公式試験値とどれだけのギャップがあったかを示したものだ。

2021年から2023年の3年間で、公式試験値と実際の走行時のギャップは各メーカーとも広がっている
(c) Transport and Environment

各メーカーとも、年々、公称値とのギャップが拡大したが、メルセデス・ベンツは特にその度合いが大きい。

「その他」に含めたのは、フォード、現代自動車、ジャガーランドローバー、起亜自動車、マツダ、三菱、日産、スズキ、トヨタだ。なおBMWの2023年の数値は、サンプルサイズが小さすぎるとしてグラフには示さなかった。

オルタナは、T&Eから日本車に特化した情報とその分析コメントを入手した。T&Eのデータベースには、レクサス、マツダ、三菱、トヨタ、スズキのPHEVが約33,000台登録されているという。

■日本車の公式試験値とのギャップは4.2倍
■日本車のEVモードでの排出量は公式値の7.3倍

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

執筆記事一覧
キーワード: #EV#脱炭素

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。