記事のポイント
- 自社の事業活動で創出した社会価値を金額換算する企業が増えてきた
- コマツは鉱山関連事業で創出した社会価値を約3600億円と算出した
- 企業の社会価値は「経済価値」を経て中長期的には財務価値に転化する
自社の事業活動で創出した社会価値を金額換算する企業が増えてきました。コマツは鉱山向けの無人ダンプトラック運行システムで創出した社会価値を約3600億円と算出しました。企業の社会価値は「経済価値」を経て、中長期的には財務価値に転化します。(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)
インパクト加重会計(IWA)は、企業が社会課題の解決を通じて創出する価値を金額で可視化する枠組みです。IWAは、今後の有価証券報告書で求められるサステナビリティ基準委員会(SSBJ)基準による「財務的影響」の開示を補完します。両者を組み合わせることで、社会課題の解決が中長期的な財務価値の創出へとつながるメカニズムを明確に示すことができます。
■コマツが「社会価値の金額換算」に踏み切った狙い
2025年10月1日付の日経新聞は、コマツが鉱山向け無人ダンプトラック運行システム(AHS)によって、2025年3月期に生み出した社会的価値を約3600億円と算出したと報じています。
この金額は、同社がIWAの考え方を参考に独自の手法で推計したものです。コマツの時価総額(約4.9兆円)の約7%に相当し、2025年3月期の営業利益(6571億円)に加えると約1兆円規模になります。
コマツは2023年度からIWAの考え方を経営に取り入れており、同社CFOは「社会影響の可視化によって社会課題の解決を加速する。非財務情報開示の社会要請に先行対応する目的もある」と述べています。
ここで言う「先行対応」とは、SSBJ基準に基づく有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示、特に「戦略」項目での「財務的影響」の開示を意識したものと考えられます。
IWAによる社会価値の金額換算を活用することで、SSBJ基準が求める財務的影響の開示に具体的な裏付けやストーリー性を与え、社会課題解決と財務価値創出の関係をより説得力を持って示すことが可能になります。
■インパクトの定量化、精度に課題も
IWAは、米ハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフェイム教授らが2019年に立ち上げたインパクト加重会計イニシアチブによって提唱されました。
その特徴は、企業活動が社会や環境に与える影響を貨幣価値に換算して評価する点です。たとえば環境汚染やCO₂排出は社会的コストとしてマイナスに、教育や医療の機会拡大や安全性の向上などは社会的便益としてプラスに評価されます。
こうした定量化により、経営者は経営判断や資源配分の合理化を行いやすくなります。社会的便益が将来のリスク低減や収益機会につながることを可視化する仕組みとしても期待されます。
一方で、IWAには課題もあります。社会的便益やコストの範囲設定、金額換算の前提(係数や評価基準)の選定には主観が入りやすく、バリューチェーン全体でのデータ収集や精度の確保も容易ではありません。
IWAIは2022年にハーバード大学での活動を終えましたが、その理念は国際インパクト評価財団(IFVI)などに継承され、現在も指標開発や実務適用が進められています。
■社会価値は経済価値を経て財務価値に
■社会価値の「可視化」が価値向上の説得力に
■IWAの本質、社会価値の金額換算ではない

