コメ問題が浮き彫りにした農業の課題、どう持続可能にするか

記事のポイント


  1. コメ問題は、日本の農業が抱えてきた構造的な脆弱性を浮き彫りにした
  2. 生産者の減少や収益性の低下は、食料の安定供給を揺るがしつつある
  3. SDGsのゴール2「飢餓をゼロに」の視点から読み解いていく

コメをめぐる混乱が続いた一年だった。価格や供給の不安定化は、日本の農業が長年抱えてきた構造的な脆弱性を浮き彫りにしている。生産者の減少や収益性の低下は、食料の安定供給そのものを揺るがしつつある。持続可能な農業とは何か。SDGs(持続可能な開発目標)のゴール2「飢餓をゼロに」の視点から読み解いていく。(西村敏之)

■土壌の劣化は食肉消費の増加が招く

世界各国のSDGsの達成状況をまとめた「SDレポート2025」によると、2030年までに達成できる見込みの目標は一つもない。スコアそのものは2018年当時より上昇しているが、その上昇速度が期待されているものに追い付いていない。

一方で、SDGs達成の難しさはゴールによって異なる。特に、ゴール2とゴール16「平和と公正をすべての人に」は難易度が高い*1。よりスコアが低いのはゴール2だ。

一般的に、ゴール2は飢餓の問題だととらえられがちだが、「持続可能なフードチェーンの構築」と考えると理解しやすい。ゴール2では、上流にあたる種子・耕作地・作物の生産から、下流の消費に至るまでのフードチェーンを構成する各段階でターゲットが設置されている。

輸送や加工の工程に割り当てられたターゲットはないが、3つの実現のための方法がこれらの工程に関与している。

さてSDレポートの評価項目のうち、過去7年でスコアを下げたのは、肥満率、ヒューマン・トロフィック・レベル(食物連鎖における人間の平均的な位置)、持続可能な窒素管理指数 (SNMI) *2である。

加えて、「ヘッドライン」SDG指数(SDGi)の指標とされた栄養不良率も、レッド評価の国が40もあり、依然として解決されていない問題だ。

つまり、持続可能なフードチェーンが十分に構築されておらず、地域により食料の過不足が発生している。食肉が増えている事から要求される食糧増加に対応するための過剰施肥*3が土壌劣化を引き起こし、農業の持続可能性に危惧が起きている。

そのため、解決策は、サプライチェーンを再構築し、栄養が不足している人々に十分な食料を供給するとともに、相対的に貧しい人にはバランスが取れた食事をとれるように環境を整えることが重要だ。さらに農地の「見える化」を進め、適正な窒素施肥を行うことで、持続可能な農業へと転換していく必要がある。

図1 ゴール2を持続可能なフードチェーンの構築として捉えた図

農業の多面的機能が認められていない

日本でもゴール2のスコアが悪化している。特に、日本特有の問題として、農業従事者が減少し、「持続可能な一次産業」が崩壊するリスクを抱えている事を挙げねばならない。

生活していくには不十分な収入が離農の大きな一因である。しかし、農作物の単価を引き揚げれば、今度は満足に購入できない人が増えるという問題が発生するため、問題解決は容易ではない。

ところで、農業・農村は多面的機能*4を有すると農林水産省のウェブサイトでも紹介されている。

例えば、文化・教育の場提供(ゴール4)、水資源の確保(ゴール6)、レジリエンスの向上(ゴール11)、生物多様性確保(ゴール15)などが挙げられる。

しかしながら、そうした農業・農村の多面的機能には十分な対価が支払われていない。つまり、社会全体がフリーライド(タダ乗り)している状態なのだ。これらの機能に対して適切な対価を支払う仕組みを整えることで、棄農が減るのではないだろうか。

「タダ乗り」をどう解消するか

全て現金支給という形で対価を支払うのは、財源確保の観点からも現実的ではない。すでにある公的補助を十分に活用する事に加え、現金支給、そして農家・農地域を中心としたステイクホルダーの繋がりを起点とした変革を伴うビジネスなど、多様な収益源を組み合わせることで、農業を継続できる環境を作っていく必要がある。

図2 フリーライドを解消する3つの方法と事例

SDGsの精神からも変活を伴うビジネスによる農家収入の増加が最も望ましい。変革を伴うビジネスは、企業や金融が積極的に関わるビジネス起点のものと、NPOや学校が大きく関わる地に足がついたもの(ボトムアップ)が考えられる。

農水省が取り組みを進めている「みどりの食糧システム戦略」は農業そのものの収入向上だけでなく、前者の取り組みを支援するものである。一方、後者の取り組みは大きく収入が増えるわけではないが地域が活性化される事、関係人口が増えるというメリットがある。

決して大きな取り組みではなくても確実に地域・農業に好影響を与えるメリットもある。例えば、栃木県那須烏山市で行われている大学と地域の連携による養蜂は、地域に再びミツバチを呼び戻すことにより直接的・間接的に農家に収益を与える可能性がある活動だ。

このように日本の農業の復活には多くの人の多様な関わり合いが効果を与えると考えられる。この関わり合い=関係人口を増加させることで農業と農業以外の収入両方の収益増により農業が継続される。多くの人が農業と関わる事により生活満足度を向上させることで、SDGsの達成に向けて大きく前進すると共に幸福度も増すことが期待される。

(注記)

*1 SDレポートで評価対象となっている167か国のなかから4つのグループを選び、各ゴールの2018年度と2025年度の比較を行う事で進捗の遅れているゴールを選抜した。4つのグループとは、(1)SDGインデックススコア上位5か国(2)ヘッドラインSDG指数改善上位5か国(3)SDGスコアもSDGsギャップも上位に位置するバルカン半島からバルト3か国までのエリアよりSDGsギャップ上位5か国、(4)過去7年間でSDGスコアが悪化した9か国(SDGsギャップ:各国のSDGスコアと1人当たりGDP(PPP)に高い相関がある事に着目した評価指数。SDGスコアをGDP当たりの期待SDGスコアで減じた値(差異)を期待SDGスコアで除した値(%)。)。

*2 持続可能な窒素管理指数 (SNMI)とは、作物生産における2つの効率指標である窒素使用効率 (NUE) と土地利用効率 (作物収量) を組み合わせた1次元のランキングスコアのこと。食料生産と環境保護の両方の必要性を考慮に入れている。また窒素使用効率 (NUE)とは

窒素の総投入量とそこからどれだけ収穫物として回収できたかの関係性を示す指標。

*3 過剰施肥とは植物に必要な量を超えて肥料を与える事。過剰な施肥は植物の生育を阻害したり、環境汚染の原因になる場合もある。様々なサイトで解説されている(例えばhttps://www.jri.co.jp/page.jsp?id=103163)。

*4 農村で農業が継続して行われることにより私たちの生活にもたらす色々な『めぐみ』。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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