関東で調剤(保険)薬局を展開する薬樹(神奈川県大和市)は2017年9月から順次、本社および89店舗を含む106の事業所で自然エネルギーの電力に切り替えている。供給元は70%以上が自然エネルギー由来の電力を提供するみんな電力(東京・世田谷)だ。薬樹は個人の健康だけではなく、社会や環境の「健康」を考え、電力調達の切り替えを決めたという。(オルタナ副編集長=吉田広子)

薬樹は、2014年秋に店名を「薬樹薬局」に統一し、リブランディングを行った。個人だけではなく、地域社会や自然環境という広がりの中で「健康」を再定義し、「健康さんじゅうまる」(健康な人、健康な社会、健康な地球)をコンセプトに掲げた。
「『薬屋』ではなく、『健康屋』であるという原点に立ち返った。薬樹薬局は、薬を処方するだけではなく、予防医療も含めた『健康』を提案できる場所でありたい。人の先にある社会や環境の健康を考えることも、地域社会の一員としての当社の責任だと考えている」(薬樹の照井敬子さん)
薬樹薬局には、薬剤師だけではなく、管理栄養士も常駐し、利用者の普段の食事や運動などについても相談に乗っている。血圧や体組成の測定サービスや訪問栄養指導なども行う。身体や地球に配慮したスロースタイルを提案するスロースタイル薬樹薬局Liko(東京・港)では、オーガニックの食品やスキンケア、フェアトレード製品なども取り扱っている。
■自然エネルギーは「戦略的投資」
2016年4月、電気の小売業への参入が全面自由化され、家庭や商店も含む全ての消費者が、電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになった。1年後の2017年5月時点で、一般家庭向け(低圧)の切り替え件数は約634万件に達し、切り替え率10%を達成した。
電力小売全面自由化を受けて、147店舗を展開する薬樹も電力の切り替えを検討し始めた。同社の照井さんは「より良い選択肢があれば、東京電力にこだわる必要はない。新電力でもコスト競争力があり、切り替え自体に反対の声は出なかった」と話す。
社内で協議のうえ、候補に挙がったのは、自然エネルギーを供給するみんな電力だった。同社は、自然エネルギーを優先的に電力調達し、電力の生産者と消費者が直接つながる「顔の見える電力」の供給を推進している。さらに電気を通じた地域活性や復興支援にも取り組む。
候補に挙がったみんな電力について、「健康さんじゅうまる」という健康理念と親和性が高いと評価する一方、安定供給への不安や倒産リスクを懸念する意見も上がった。
新電力になっても「安定供給」は制度と仕組みで保障されている。トラブルや停電リスクも、これまでと変わりない。万が一、契約した新電力会社が倒産、撤退した場合でも、新しい電力会社と契約するまでの間、送電会社が電気の供給を保障してくれている。
このことを丁寧に説明することで、懸念が払しょくされ、理解が広まっていったという。電力調達において、地域活性や自然環境に配慮するみんな電力を選択することは、同社の健康理念「健康さんじゅうまる」に沿った意志決定であり、「これまでただのコストだった電気代が、戦略的投資になる」との考えも、社内の理解を得た大きな要因だった。
■回収した天ぷら油が店舗の電力に

薬樹薬局では10年ほど前から、回収ステーションを設け、使用済み食用油を回収している。その油は、「TOKYO油田」プロジェクトを進めるユーズ(東京・墨田)が回収し、バイオ燃料(VDF)に再資源化する。ユーズは1993年に世界で初めて使用済み食用油からVDFを作ることに成功した。
エネルギーの地産地消を掲げ、目黒川沿いの桜並木を桜色LEDで装飾する「冬の桜」イルミネーションでは、周辺の家庭や飲食店から使用済み食用油を回収し、VDFによる100%自家発電を実現。2016年には、新電力会社TOKYO油電力を設立した。
みんな電力もユーズから電力を調達しているため、薬樹薬局で回収した食用油が店舗の電力源になる。
照井さんは「回収した天ぷら油がまわりまわって、店舗の電気になる。こうしたストーリーは薬局の利用者にも伝わりやすい。サステナブルな価値観を提供し、企業のブランディングにもつながれば」と意気込んだ。