私たちに身近な生物多様性(31)[坂本 優]
ルリビタキは日本国内で1年中観察できる野鳥だが、本州などでは夏は山に住み、東京など平地で見られるのは秋から春にかけてとなる。成長した雄は、背中から脇にかけて鮮やかな瑠璃色に染まる。簡単には観察できない野鳥だが、それゆえ、出遭ったときの喜びも大きい。雌は茶色っぽい地味な色合いだが、くりっとした目がかわいい。秋に大陸から飛来するジョウビタキの雌とよく似ているが、ジョウビタキにある腰のあたりの白い斑点はない。
ヒタキという名は、火打石で火をおこすときのような「チ・チ」という鳴き声に由来するとも言われるが、ルリビタキも「チ・チ」という声で鳴く。さえずりは、私にはヒュル・ヒュルというようにも聞こえた。口笛のようとも表される。
幸い、最近は大都市圏でも深い木立に囲まれた公園などには、しばしば姿を現すようになった。東京都内で私が野鳥を観察するポイントの中では、明治神宮の南池が比較的遭遇頻度が高い。大都市におけるルリビタキの出現は、緑化活動が実をむすんでいることの、目に見える成果の一つと私は受け止めている。
このコラムの写真は、いずれも今年(2018年)2月に明治神宮南池の周辺で撮影したものだ。カメラのレンズ越しに姿を追いながら、都会の喧騒を忘れ、ご褒美のようなひと時を過ごした。南池ではある程度時間をかけると、カワセミも1年を通じてかなりの確率で観察できる。写真のルリビタキを撮影した日は、カワセミの姿にも癒された。都心で森の瑠璃色と水辺の翡翠を一度に観察できる、東京の自然の奥深さを再認識した次第だ。
ただ、緑が復活し水質が浄化されても、そこに住む生きものが外来種に置き換わってしまったら、せっかくの自然環境の改善も、生物多様性保全という観点からは価値が減退する。
その点からも日本在来のルリビタキの飛来はうれしい便りだ。
冬が過ぎルリビタキが山に戻る頃、東京は桜、ツツジ、フジ、サツキ、バラ、菖蒲など、春から夏にかけての本格的な花見のシーズンとなる。これまで冬枯れの林を彩ってくれていた彼らとの再会を願い、また、100年前にこの森づくりを計画し実践してくれた先人に感謝しつつ家路についた。