
「名古屋市内で最後の里山」と呼ばれる平針里山(天白区)の開発工事が25日、突然始まった。この2年余り「開発か保全か」で大きく揺れ続けたが、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の会期中、突然工事が始まったことに対して、「COP10会場に自然保護団体が集まっていたのを見越しただまし討ち」との批判が上がった。
25日の工事は、里山の入り口を封鎖し、「立ち入り禁止」との看板を掲げるとともに、竹林などの伐採が始まった。近隣住民には22日に工事の通知書が届いただけで、口頭での十分な説明はされないままだったという。地元住民の間には、突然の工事に対する不信や不安が募っている。
大正時代以来の棚田やため池、ナラなどの広葉樹林が広がる平針里山に開発計画が浮上したのは08年5月。15ヘクタールのうち、約5ヘクタールを開発して宅地や学校にする計画だった。
河村たかし市長は、COP10の主催都市として、里山を開発するのは矛盾があるとし、09年4月の就任直後から開発許可を保留していた。市による買収構想も出たが、市による鑑定額(19億5千万円)と開発会社の希望額(25億円)の5億余の差が埋まらず、とん挫した。その後の09年12月、市は開発許可を出した。
名古屋市は、2050年に向けて多様な生物と生態系に支えられた豊かな暮らしが持続している都市を目指す「なごや戦略」を掲げる。だが、市内で最後に残っていた里山の開発計画を差し止めることはできなかった。
「平針の里山保全協議会」代表の宗宮弘明・名古屋大学名誉教授は、「欧州では、自然保護を経済開発に優先させて開発を差し止める法律が整備されているが、日本にはない。市内唯一の里山を守れないようでは、名古屋にCOP10を誘致する資格はない」と厳しく批判している。(オルタナ編集部 吉田広子)
