ロングインタビュー「この会社はすでに一族のものではない」

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■ボトムアップ型でもリーダーは必要

――資本主義という仕組みは21世紀も22世紀も残っていくでしょうし、僕もそれ自体に反対しているわけでもないのですが、あり方ということでいうと、もっといいあり方を目指していかなきゃいけない。

そのなかでいろんな多くの問題を含んでいて、さっきからお話に出ている日本型雇用とかですね、従業員との付き合い方、あるいは株主との付き合い方ということで、かなり日本もいろいろな経験をしてきたと思うのです。そういう意味で言うとこの1―2年で大きく変わっていかないと日本は結構大変なことになるのじゃないのかなと思います。伊奈さんはこれから日本という国をどうご覧になっていますか。

伊奈:日本という国自体、そこまで大きなことは考えたことないのですけどね。私が若いころにヨーロッパに行くとね、ヨーロッパってすごい歴史があってすごいのだけども、何かもう本当に若者からみると、何かもうまとまって出来上がってしまって、何ももうこれ以上変わりもしないような、ある意味では活力もないなということを非常にヨーロッパに行くたびに思ったのですけども、今多分そういう感じになっているのではと思います。日本も、そこからさらに大きく変わっていこうというようなエネルギーというのがあんまり国全体に無くなっているのではないのかなということはありますね。

――そうですね。成熟した国の一つのかたちなのかも知れないですけども、成熟したままでは多分、あまり未来は明るくない。やはり、現状からどう変われるか。ボトムアップ型の会社がいっぱいできたら、そういう変革のパワーが生まれるかも知れません。

伊奈:ボトムアップ型でもやっぱりリーダーの存在というのは大事です。リーダーはいいリーダーが必要なのでしょうね。

■「INAX5」は唱和も張り出しもしない

――さっきの国の話と企業の話とちょっと合せてみると、上があまり言わなくても下が自分で考えるというお話でしたけど、戦後の日本人というのは、例えば生活者として、選挙民として自分たちでモノはあまり考えない、考えなくても長く何とかやっていけるような状況だったわけですね。暮らしやすいと言えば暮らしやすい。でも自分たちでそうやってモノをあまり考えないと。やっぱりそれを考えるとこの国の状況の中で、ボトムアップでちゃんと回る会社ができるとやっぱり、ある意味驚きです。何度も繰り返すようで申し訳無いのですが、やっぱり人を育てるコツみたいなものがあるのでしょうか。

伊奈:どうですかね。あんまり指示をしないというところは受け継がれているのかなというのは思いますけどね。でもこれが気に入って会社に入ってみたらがっかりしたとかね、そういう人もいます。結構学生さんでいろんな企業の勉強をして、これ見て、これがすごく気に入って、内定をもらって、入ってみたらやっぱり違っていたとかね、なんて言われたことも何度もありますしね。こちらが思っているほどにはね。

「INAX5」を作っただけでは全然変わらないので、よくどこかに貼っておくとかね、毎朝ミーティングのときに唱和するとか、普通ならそういうことをやるのですが、INAXでは、そういうことを一切やらなかった。

どこにも掲げていないし、唱和もしていないし、要はそういうことで「よし」と浸透していくというふうに考えるのはマズい。だから、一回50人くらいの単位で私が全国を歩いて、全部で100回ぐらい歩いて回りました。社員の人と、具体的な話をしたわけじゃないのですけども、これはみんなで社員全員でやらないとできないのだよと、こういう話を社員一人一人がやることなのだよということをお話してやってきました。それを「てる・COM 」と呼んでいました。

■時代の変化に取り残されるという危機感

――てる・COMを通じて自分の思いを伝えに行かれたのですか。

伊奈:そうですね。自分の思いを伝えるのと、本気でやろうとしていることを感じ取って欲しいと。モノを作って何か印刷物を配ってきたとかではなくて、やっぱり出向いて行って直接、一応5000人のひとの顔を全部見て、企業を変えるということは皆でやることなのだという話をして、本気であることを伝えたかった。

――なるほどね。やはり何もしなかったわけでは、とんでもなく違っていましたね。それは他の経営者さんたちがおやりにならないことをおやりになったということですよね。「てる・COM」はご自分で発案なさったのですか。

伊奈:そうですね。

――その時は会社を変えたかったのですか。

伊奈:そうですね。自分たちでその世の中に合わせて会社をどんどん変えていくという会社にしたかったわけでね。

――なるほど。その時は逆にいうと動きは止まっていたと。

伊奈:止まっていたというより、一応業績的に何も問題はないし、業種的にも問題ないし、ある意味では何も問題はない。

――でもご自身では問題を感じていた。

伊奈:そうですね。それはやっぱり時代は変わっていくと。時代が変わっていくのに自分たちでついていける企業文化というのかな、そういう企業にしていかないことにはダメだということで。

――このままではダメになるというか、問題が起きるという予感がおありだったということですか。

伊奈:ええ。

――それはいつごろからですか。

伊奈:そういうこの社名を変えようとか、そういうようなことを考えているころでしょうから、社長になるもう少し前からでしょうね、きっと。

――それは普段見ておられて、いろんなところに問題を感じられたということですね。

伊奈:問題を感じたというよりはですね、これはそもそも日経ビジネスさんかもしれないけども、「企業の寿命30年説」というのがあったじゃないですか。企業の寿命30年説というのがあって、それはもうずっと遡っていくと事実として証明されているというね。

――30年で消えた会社も多かったという。

伊奈:30年経っても依然として輝いている会社というのはもう本当に稀であると、そういうことだと思うのですけども、この先さらにずっと世の中に輝き続けている企業であるためには、それなりの相当な企業の体質みたいなものを作り上げていかないと、今うまくいっているだけに、いかんのじゃないのかなと。

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2010年6月8日(火)13:35

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