ヨルダンの難民キャンプ内外の実情レポート(日本ユニセフ協会)

シリア内戦が始まって2年。死者は9万人を越え、国内で紛争に巻き込まれている人は680万人、国外に逃れた人は163万にのぼり、人道支援を必要とする人は増え続けています。6月7日、ユニセフは、2013年末までのシリア危機人道支援資金として4億7千万米ドル(約450億円※)の過去最大規模の支援を国際社会に要請。同日、国連もユニセフの要請を含めた総額44億米ドル(約4180億円※)の支援を呼びかけました。資金不足が深刻化する一方で、支援の拡大は急務です。

情勢が混迷を極める中、最も厳しい立場におかれているのは子どもたちと女性です。周辺国でレバノンに続き、2番目に多いシリア難民を受け入れているヨルダン。難民登録をしていない人を含め、56万人が避難しているとされ、その半数は18歳未満の子どもたちとみられます。

このたび、ユニセフ・ヨルダン事務所は報告書『SHATTERED LIVES(仮訳:「困窮を極める生活」、英文全43ページ)』を発表、難民キャンプとヨルダン地域社会に身を寄せる女性や子どもたちを取り巻く状況と問題を報告しました。命からがら逃れてくるシリアの人々は一晩で500人以上。国境を閉鎖することなく受け入れてきたヨルダンですが、その受け入れ能力は限界を迎えています。そして、必死に逃れてきた避難先で、子どもたちや女性は、家庭およびキャンプでの暴力、武装集団への勧誘、早期婚、児童労働などの問題に直面しています。本レポートは、優先的に取り組む分野として、子どもや女性の保護、教育、水と衛生などを掲げています。

◆難民キャンプかヨルダン地域社会へ避難

ヨルダンに避難してきたシリアの人々は、難民としての登録を行い難民キャンプで暮らすか、またはヨルダンの町や村に身を寄せます。キャンプでは、支援団体がテントと基本的なサービスを提供。一方、シリア人を受け入れるヨルダンの町や村は国連などの支援を受けており、避難してきた人々は無料でヨルダン政府による公的な基礎サービスを受けられるようになっています。

しかし、12万人以上を収容しているザータリ難民キャンプの治安情勢は、急激に悪化。窃盗や公共物の破壊が頻発しているほか、夏が近づくに連れ、感染症の集団発生などの公衆衛生のリスクも高まっています。以下、ザータリ難民キャンプの「子どもの保護と性別に基づく暴力」の状況を抜粋でご紹介いたします。

◆女子や女性への家庭内暴力が増加、男子にも

シリアの社会通念上、家は私的な空間で社会的制裁の対象外とされているおり、避難先での家庭内暴力が増加。特に10代の女子と女性がセクシャルハラスメントならび性的暴力の被害を受けています。難民及び支援関係者からの調査(2013年1月実施)の結果は以下の通りです。

<家庭内暴力の加害者>
夫(37%)、父親・男性保育者(27%)、妻(8%)、母親・女性保育者(8%)、兄弟姉妹やほかの家族など(計20%)

<子どもが暴力を受ける場所>
自宅であるテント(女子:47%、男子23%)、トイレ・シャワー(女子:25%、男子19%)、通学途中(女子:6%、男子19%)、食料や生活用品の配給場所(女子:9%、男子8%)、台所(女子:3%、男子15%)、公共の場(女子:3%、男子8%)

<おとなが暴力を受ける場所>
食料や生活用品の配給場所(女性:31%、男性53%)、自宅であるテント(女性:35%、男性11%)、キャンプの入り口ゲート(女性:8%、男性26%)、トイレ・シャワー(女性:12%、男性5%)、台所(女性:15%、男性5%)

女子や女性が性的な暴力を受ける背景として、住居に鍵がないこと、多数の男性親族といっしょに暮らしていること、プライバシーがないことがあげられます。また、自宅やテントであっても、シャワーやトイレ、台所といった共有スペースも被害場所となっており、夜間となるとその危険性はいっそう高まります。男子は女子よりも、通学途中に暴力を受けることが多くなっています。

◆弱い立場の人がサービスを最も受けにくい

女性のみの世帯や障がいのある家族がいる世帯は、キャンプ内のサービスが利用しにくい状況にあります。特に、配給の受け取り場所には、男性が多くいることから、女性が暴力を受ける危険性が高くなっています。現在ヨルダンには、障がいのあるシリアの子どもが25000人いると推定され、うち5000人はザータリ難民キャンプにいるとみられていますが、こうした子どもたち及び家族も、サービスを受けにくいのが実情です。

<弱い立場にある人たちの内訳>
身体的な障がいのある人30%、女性のみの世帯26%、精神的な障がいのある人14%、新たにキャンプに来た人10%、子どものみの世帯10%、その他(高齢者、妊婦)10%

◆徴兵などを恐れてひとりで避難する子どもも

子どもたちの大多数は家族とともに避難してきますが、ひとりで、またははぐれてしまった子どもたちもいます。3月末時点で、ひとりで避難してきた子どもは307人(男子217人、女子90人)、はぐれてしまった子どもは323人(男子213人、女子110人)。

子どものみで避難してきた背景には、シリア軍への徴兵や反政府勢力の家族が逮捕されたことを恐れていることがあげられます。こうした子どもたちが家族のもとへ戻れる取り組みが行われていますが、親族以外の人と国境を越えてくる子どもたちも多くいるため、慎重に進められています。

◆治療を受けたあと、シリアに戻って戦う子どもも

ザータリ難民キャンプに暮らす少年の多くは、シリア国内の武装集団に何らかのかたちで巻き込まれています。また、シリアで負った傷を治療しにキャンプにやってきて、その後、自らの意思でシリアに戻り戦う子どもたちも報告されています。キャンプ内では、武装集団による勧誘も行われており、支援機関は監視を強めています。

◆安全や見返りを求める早期婚

18歳未満の女子が結婚することを早期婚といいます。シリアでは、法律では結婚は16歳で認められていますが、実際には13歳ぐらいで結婚することがよくありました。
シリアの早期婚では、これまで同世代の結婚が一般的でしたが、現在は、ヨルダンの年の離れた男性とシリア人女子の結婚へと変化しています。また、経済的見返りを求めて娘の結婚を決めるケースも生じています。

◆キャンプ内で働く子どもたち

シリアでは、特に貧しい地域では児童労働が行われてきました。おとなよりも子どものほうが仕事をみつけやすいことから、子どもを働かせようとする親もいます。子どもたちは、物売り、物乞い、清掃、建設、おとなの代わりに配給の列に並ぶなどの仕事をしています。

地域に避難する子どもたちも同じ危険と直面しています。ヨルダンの町や村に身を寄せるシリアの子どもたちや女性にも、基づく暴力や虐待、養育放棄、搾取、暴力などが起きていますが、キャンプと比べて、正確な情報が少ないのが現状です。

顕著な事例として、男児や男子が働いていることが上げられます。避難先である牧場で、親とともに長時間働いているとされ、ゴール(Ghor)では、就学前の子どもたち4300人のうち、44%が働いています。また、イルビッド(Irbid)では、建設作業や飲食業、小売業、製造業で、子どもたちが働いています。また、難民キャンプで暮らす子どもたちと同じく、若すぎる結婚や武装勢力への勧誘などの危険があります。

本レポートでは、教育、水と衛生、栄養と保健、メンタルヘルスと心のケア、若者の分野についても取り上げています。

※1米ドル=95円で計算

■参考資料:ヨルダンにおけるシリア難民の統計(2013年6月13日UNHCR発表による)

・難民登録済みまた登録待ちの人数 477,455人
・登録された難民のうち、18歳未満の子どもの数 212,124人(男106,851人、女
105,274人)
・登録された難民のうち、5歳未満の子どもの数 72,548人(男35,880人、女
36,668人)
・登録された難民のうち、妊娠中の女性の数 17,743人

ヨルダン国内最大のザータリ難民キャンプには、約12万人が避難しています。
毎週数千人規模で増加しており、新たなキャンプの開設準備が進められています。

■ 本件に関するお問い合わせ先
(公財)日本ユニセフ協会 広報室
TEL:03-5789-2016  FAX : 03-5789-2036
メール: jcuinfo●unicef.or.jp(●を@に変えてお送りください)

発信者:(公財)日本ユニセフ協会 広報室

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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