企業が「ポイント・オブ・ノー・リターン」を通過する前には、必ず「前兆」がある。それを見逃して、後に大きなダメージを受けるか。あるいは危機を察知し、早めの手を打つか。企業にはシステムとしての「危機察知能力」が求められている。
徳江倫明氏は「いま私たちの目の前にある最大の危機は、福島第一原発事故による放射能汚染問題だ。東京電力の対応と、当時の新日本窒素の対応は全く同じで、国策によって培われてきた大企業の体質は全く変わってない」と手厳しい。
徳江氏は「水俣病の患者支援をしていた友人は『日本はチッソ型社会である』と言った。その言葉が、いま改めて、まざまざとよみがえる」と話す。
福島第一原発事故において、政府や東電にとって最大の「ポイント・オブ・ノー・リターン」は2006年10月、共産党の吉井英勝衆院議員(当時)の国会質問と言ってよいだろう。
同議員は福島第一原子力発電所を含む43基の原子力発電所について、地震によって送電線が倒壊したり、内部電源が故障したりすることで引き起こされる電源喪失状態や、大津波によって冷却水の取水が不可能になることによる炉心溶融の可能性を指摘していた。
「ポイント・オブ・ノー・リターン」は決して一回だけではない。すべてのポイントを通過してしまう前に根本的な対策を打つことは、東京電力、政府、そして国民自体に問われている世界に対する責任だ。
東京電力の皷紀男副社長は2011年5月1日、訪問先の福島県飯舘村で「個人的には」とした上で、今回の事故について「人災だと思う」「原発事故は想定外だったという意見もあるが(飯舘村の皆さんのことを考えると)想定外のことも想定しなければならなかった」と述べた。
専門家も顧客の声も聞かず、いつの間にか「ポイント・オブ・ノー・リターン」を過ぎてしまう。そんな愚行は、一企業だけではなく、社会全体の損失である。