トークセッションでは「京のおばんざいから見える食の課題」をテーマに、自然の恵みである食をいかに感謝して享受するかが論点となった。
植物の専門家である植物生命科学科の古本強教授(就任予定)は、「コンビニで100円ちょっと出せばおにぎりを食べられる手軽さからは『お米が出来るまでの時間や手間ひま』に意識が及びづらいのではないか」と指摘。
「米づくりの過程に触れることで食物の大切さを情報としてではなく、身体が知ることができる環境を教育現場でつくってはどうか」と提案した。
農作物の改良・栽培技術面から環境と調和した農業を追求する資源生物科学科の玉井鉄宗教授(就任予定)は、農業を「自然と人間のへその緒」と呼び、食育ならぬ「農育」を提案。
「人間は、他の生き物の命を奪うことでしか命を維持することができず、食の楽しみには哀しみが含まれています。人間が自然の一環であることを実感するためには、命を奪って食べるまでの一連の経験が必要なのではないか」と話した。
食品栄養学科の山崎英恵准教授(就任予定)は、「今の日本では、台風が起きて畑が被害にあってもスーパーに食品が並び続ける、季節の違う野菜が売り場に並ぶ――といったことが当たり前に起きています」と、自然に反する違和感を指摘した。
食料農業システム学科の香川文康教授(就任予定)は「季節に左右されないのは一見すると『便利な世の中』ですが、農業従事者は低賃金労働を強いられ、そうでない職業の人も休みなく働き続けている現状があります。社会システムそのものを見つめ直す時期に来ています」と述べた。
和食が無形文化遺産に登録された概要の中にも「自然の美しさや季節の移ろいの表現」という項目が含まれ、季節感は、和食にも欠かせないものだといえる。
杉本氏は、「おばんざいのメニューを提案する際も、まずは季節感を大切に組み立てていきます」と話す。冒頭に出た「おこうこの炊いたん」のように、「季節外に味わう保存食や乾物食が、食を循環させ、毎日の食卓の味わいに奥行きをつくるのです」と語る。
和食は旨味を特徴とした料理であり、料理の味は「味蕾(みらい)」という舌にある器官で味わう。
食と農が上手く循環し、健康な食を味蕾で感じることにより、日本人としての心を育み、それが未来の和食文化の発展につながるのではないかという意味を込めて、「味蕾から未来へ」と結ばれ、トークセッションは幕を閉じた。
全6回シリーズの第2回は2014年3月7日、「農山村から創りだされる食の循環」をテーマに龍谷大学大宮キャンパスで開催される。ゲストは篠ファームの高田実氏。USTREAMでの配信も行われる。
【ゲストプロフィール】
杉本節子 氏
公益財団法人奈良屋記念杉本家保存会常務理事兼事務局長、料理研究家、エッセイスト。京町家と京町衆の文化継承と同時に、NHK出演、新聞・雑誌などでエッセイ、講演、大学非常勤講師、料理講師、食文化展示監修などの活動を行う。
【龍谷大学農学部登壇者(就任予定)】
※農学部は2015年4月開設予定(2014年設置認可申請予定)
植物生命科学科 教授 古本強氏
資源生物科学科 講師 玉井鉄宗氏
食品栄養学科 准教授 山崎英恵氏
食料農業システム学科 教授 香川文庸氏