エコ賃貸を始めてみたが、エコビジネスは難しい。(2)[小林 光]

さらに、お客を見つけ、物件を管理する不動産代理店も、やはり簡単にお客が見つかるように、説明の容易な、定型化されたスペックを望み、さらに安い家賃設定を勧めるのであった。こうして、オーナーは、安普請での市場参入を決断するしかない立場に置かれるのである。

■ エコ賃貸の住み手にとっての意義

ところで、これは幸せなのだろうか?

環境省の調査によれば、住まい手が家に落ち着いてから、不満を感じる項目の四傑を見ると、なんと温熱環境が悪い(寒いとか、結露するとか)、とか、光熱費が高い、といったことが、(家の選択時点には気にしなかったものの、)登場してくるのである。

入居後に感じる問題点
入居後に感じる問題点

慶応大学理工学部の伊加賀教授の研究に依れば、高断熱住宅による疾病治療や通院を回避する効用は、1人1年間で約2万7000円とされていて、逆に言えば、低質な住居は無駄な出費を住み手に強いるものなのである。

健康よりも損得がもっと明確なのは、省エネや創エネができる住宅とそうでない住宅との高熱費の差である。我が羽根木テラスBIOを通常の住宅と比べた場合の光熱費の違いを、専門である環境エネルギー総合研究所に推計してもらったところ、3人家族として月間約9700円位の光熱費の低廉化が見込まれるということになった。

3人家族であれば、住まい手には、月1万6000円程度の便益が生まれるのである。特に、賃貸住宅の場合には、住まい手が初期投資を負担せずに、いわば分割払いで済ませられ、他方、便益は、直ちに享受できる(極端に言えば、明日に甚大な災害があっても、貯金や借金などを要せず、電力の自家消費ができる)、という、賃貸ならではの特性があることは見逃せない。

賃貸の住み手は、普通、太陽光発電電力を使うなど夢のまた夢との感覚を持とうが、実は、賃貸こそ、オーナーがその気になれば、借り手はかえって気楽にこれを享受できる可能性があるのである。

こうして見ると、エコ賃貸の魅力や利益が十分に住み手に説明され、賃料がメリットに見合うものであれば、エコ賃貸が積極的に選択され、普及していく可能性は大いにあると言えよう。

続きはこちら⇒エコ賃貸を始めてみたが、エコビジネスは難しい。(3)

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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