あの日を忘れない――九十九里津波被害林復興活動は続く[岩崎 唱]

順調に生育しているクロマツ 千葉県山武市蓮沼殿下海岸で
順調に生育しているクロマツ 千葉県山武市蓮沼殿下海岸で

NPO法人 森のライフスタイル研究所は、2011年8月から津波被害を受けた蓮沼殿下海岸の海岸林復興活動を行っている。このプロジェクトには、一般ボランティアだけでなく多くの企業や地元の人々も参加し2014年7月までに約2.8haに延べ18900本のクロマツ等の植林を実施した。夏には下草刈りなどの作業を行い、健全な海岸林の回復を目指している。(森のライフスタイル研究所=岩崎唱)

今年の活動は1月17日、千葉県山武市蓮沼殿下海岸での「3.11復活の森」プロジェクトから始まる予定。2011年の東日本大震災による津波の被害を受けた海岸林の復興活動を2011年の8月から手がけ、今年で丸4年を迎える海岸林復興プロジェクトだ。

震災直後、誰もが思ったことだが、大きな被害を受けた東北地方の人たちを手助けすることはできないものかと考えた。しかし、団体としての活動の場として東北地方は遠く、しかも不案内である。また、そのときに東北地方が求めていたのは森づくりよりも生活再建だった。

森づくりを行う団体としてできることはないかと調べているうちに千葉県の被害のことを知った。報道ではあまり取り上げられなかったが、九十九里浜は津波により大きな被害を受けていた。

東北のように海岸林が根こそぎ波に持って行かれるということはなかったが、侵入した海水により多くのクロマツが枯れた。もっとも松くい虫により弱っていたところに塩害というダブルパンチでノックアウトされたという感じでもある。

震災後間もない2011年5月に当団体代表の竹垣が蓮沼殿下海岸の海岸林(県有林)の状況を視察し、千葉県と法人の森協定を締結し約1.2haの海岸林の造成に着手。枯損木を東京から駆けつけたボランティアが手ノコで伐り、林内に整理し植林の準備を始めた。

2014年春の植林風景 千葉県山武市蓮沼殿下海岸で
2014年春の植林風景 千葉県山武市蓮沼殿下海岸で

さて、問題となったのがこの伐倒木の処理だ。松くい虫の被害木という恐れもあるため、外部へ持ち出すことができない。そのまま放置しておいては作業の邪魔になる。そこで防災林の専門家とも相談の上、業者に依頼し自走式チッパーシュレッダー(木材粉砕機)でチップにして林内に散布することにした。

散布することで砂の飛散を防ぎ、さらに植林後の雑草の繁茂を抑制することができるというメリットもあった。チップが分解される過程で土壌が過窒素状態になり、貧栄養の環境を好むクロマツの生育を妨げるという危惧があったが現在のところ支障なく順調に生育している。

枯損木の整理は2011年8月から翌年の1月まで続け、2月末から千葉県の防災林造成の手順に従って松くい虫による被害をもたらす病原体であるマツノザイセンチュウに対して耐性を持ったクロマツ苗とトベラ、マサキを混植した。

植林は3回行い約1.2haに苗を植え終えた。さらに翌年の2013年にも約0.2haの被害林を新たに整理し植林を行った。2014年は、既に植林を終えたベルト状の陸側の約0.4haフィールドの造成を始め、林帯幅を拡大し海岸林の機能増強を図っている。今年もさらに林帯幅を拡げるため、新たなフィールドに植林を行う予定だ。

蓮沼殿下海岸のプロジェクトでは、震災復興ということもあって多くの企業・団体からの暖かい支援を受けることができた。また、外資系金融企業や千葉に本社を置く企業など10社以上の社員がボランティアとして植林や下草刈りなどの作業に従事してくれた。参加者は2014年7月までに一般、企業を合わせて延べ1500人以上になる。地元の蓮沼ライフガードチームの若者も自分たちの海岸を守りたい!と立ち上がってくれた。

暑い夏の盛りに行う下草刈り 千葉県山武市蓮沼殿下海岸で
暑い夏の盛りに行う下草刈り 千葉県山武市蓮沼殿下海岸で

それに呼応して湘南のサーファーやライフガードの若者も植林を手伝いに来てくれた。多くの人に森づくりに携わっていただくことができたのは幸いだった。今後の課題は、保育のための下草刈り。植栽地が約3ha近くなるため人手の確保に頭を悩ませている。

しかし、植えた苗は順調に生育している。2012年に植えた苗は大人の肩を超えるほどにまでなった。継続は力なり。微力ながら海岸林復興活動を継続させて、数十年後には風や砂から人々の暮らしを守り、白砂青松の景観をもたらす美しい海岸林に育てていきたい。

フリーランスのコピーライター。「緑の雇用担い手対策事業」の広報宣伝活動に携わり、広報誌Midori Pressを編集。全国の林業地を巡り、森で働く人を取材するうちに森林や林業に関心を抱き、2009年よりNPO法人 森のライフスタイル研究所の活動に2018年3月まで参画。森づくりツアーやツリークライミング体験会等の企画運営を担当。森林、林業と都会に住む若者の窓口づくりを行ってきた。TCJベーシッククライマー。

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