紛争鉱物規制をめぐる現状【企業と社会の関係】

齊藤紀子さん

齊藤 紀子(企業と社会フォーラム(JFBS)事務局長)

JFBSでは、企業と社会の関係性にかかわる研究の促進を目的として、JFBS会員を対象に、研究助成を行っています。2012年度(2012年9月~2013年8月)の助成対象研究としては、「マルチ・ステークホルダー紛争鉱物規制プロセスへの日本企業参加の可能性」、「ソーシャルコンシューマーの消費意思決定プロセスの解明」の2件が採択されました。採択された研究については、年度途中に開催される研究会にて、経過報告が行われます。

今回は、4月2日開催の研究会における、髙美穂氏(英国コベントリー大学平和と和解研究所リサーチ・アシスタント)からの紛争鉱物規制の現状に関する報告内容を紹介致します。

紛争鉱物とは、米国金融改革・消費者保護法の1502条「紛争鉱物に関する規定」に基づき、虐殺などの非人道的な行為を行う武装集団の資金源となり、更なる紛争を招く可能性のある稀少鉱物資源(タンタル、スズ、タングステン、金)を指すことが一般的です。

これについて髙氏は、現地政府軍も鉱物資源をめぐって違法に税を徴収しており、紛争鉱物を資金源としているのは武装集団だけではない、という見方もあることを指摘しました。主な産出国であるコンゴ民主共和国では度重なる紛争を経て、暴力と劣悪な衛生状況のため、1998年以降市民を中心として500万人以上の人命が失われる、という史上最悪の人道の危機が起きています。

一方、これらの稀少鉱物資源は、携帯電話などの電子機器やその他産業に不可欠であることに加え、新興国が急速な経済成長を続けていることから、需要が伸び続けています。それと同時にビジネスを行うにあたっては、次のような様々な課題が内在しています。

産出国の政府機能が脆弱でありガバナンスが劣悪な状態にあること、手掘り職人による小規模採鉱の多くは違法状態で行われていること、インフォーマル経済であるがゆえにサプライヤーを明らかにできないこと、など。

こうした中、サプライチェーンが紛争に寄与したり人権侵害に加担したりしないよう、国際的ガイドラインの策定や、監査・認証制度の整備が進められてきました。特に、サプライチェーンが長い電子機器産業を中心として、マルチ・ステークホルダー・プロセス(以下、MSP)での対応が行われています。

例えば、アメリカの電子業界行動規範(EICC)とヨーロッパのグローバル・e サステナビリティ・イニシアティブ(GeSI)は、「紛争フリー精錬所(CFS)プログラム」として、紛争鉱物ではない鉱物資源の精錬/精製を行っていると評価された精錬所/精製所のリストを、タンタル・スズ・タングステン・金それぞれにつき作成・公開しています。

また各企業が、自らのサプライチェーンにおいて特に紛争鉱物に関する情報を追跡し、デューデリジェンス・プロセスに役立てることができるよう「紛争鉱物報告テンプレート・ツール」を開発・公開し、情報開示・伝達を促進しています。

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齊藤 紀子(企業と社会フォーラム事務局)

原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学人間社会学部准教授。

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