ステークホルダーの優先順位【世界を変えるCSV 戦略】

■エーザイとジョンソン&ジョンソンの例
エーザイは企業理念で、「本会社の使命は、患者様満足の増大であり、その結果として売上、利益がもたらされ、この使命と結果の順序が重要と考える」と謳い、患者というステークホルダーを最重視する考え方を明確にしています。そして、その企業理念を実践するものとして、「業務時間の1% を患者様とともに過ごす」ヒューマン・ヘルスケア(hhc)活動を推進しています。

このhhc活動は、エーザイらしさの源泉となっていると共に、患者のニーズをしっかり汲み取ることにより、エーザイの主力商品であるアルツハイマー型認知症の治療剤「アリセプト」のイノベーションを生み出しています。

なお、エーザイでは、hhc活動で現場に赴いた社員が、患者やご家族と過ごすことを通じて感じ取った課題を、社内で議論・普遍化し、対応策を磨き上げて、一人ひとりが現場で実践するという、知識創造プロセスを確立しています。

さらに、そうしたプロセスを効果的に機能させるため、hhc活動を推進する専門組織「知創部」の設置、hhc 活動成果の人事評価への反映、現在の活動および過去の優れた事例などのイントラネットでの共有、有望な取り組みの表彰、サーベイによる知識創造理論の浸透度の確認など、いろいろな工夫をしています。

ステークホルダーの優先順位が、重要な意思決定において、良い形で現れたのが、ジョンソン&ジョンソン(J&J)のタイレノール事件での対応です。J&Jは、その企業理念であるクレドにおいて、自社の第一の責任は、医師、看護師、患者、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであるとしています。そして、第二の責任が全社員、第三の責任が地域社会、第四の責任が株主に対するものであると、ステークホルダーの優先順位を明確にしています。

1982 年にJ&J の頭痛薬タイレノールに毒物が混入され、服用者7人が死亡するというタイレノール事件が発生したとき、J&Jの経営陣は、「顧客に対する責任を第一とする」というクレドに基づき迅速な意思決定を行い、大きな損失を覚悟で、マスコミを通じて大々的に注意喚起と全商品の回収を呼びかけ、商品回収を徹底して行いつつ、毒物の混入を防ぐ新しいパッケージの開発を行いました。結果として、タイレノールの売上もすぐに回復し、J&J は、それまで以上の高い信頼を顧客から得ることとなりました。

どのステークホルダーを最優先とするか、ステークホルダーの利害が対立するときにどう対応するか、それを社内で共有することは、経営上の意思決定に違いを生み出します。時にそれは、企業の命運を分けることとなります。

【みずかみ・たけひこ】東京工業大学・大学院、ハーバード大学ケネディースクール卒業。旧運輸省航空局で、日米航空交渉、航空規制緩和などを担当した後、アーサー・D・リトルを経てクレアンに参画。CSR/ サステナビリティのコンサルティングを主業務とする。ブログ「CSV/ シェアード・バリュー経営論」共著『CSV 経営』(NTT 出版)

(この記事は、株式会社オルタナが2014年4月7日に発行した「CSRmonthly 第19号」( 2014年4月7日発行)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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