サプライヤーと連携し、ビジネス全体の底上げを【ダイバーシティとジェンダー】

大西祥世
グローバル・コンパクト研究センター研究員
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大西 祥世 (グローバル・コンパクト研究センター研究員)

WEPsの原則5は、企業がマーケティング戦略や事業活動の中で女性のエンパワメントに取り組むヒントが満載です。例えば、女性の社員の発想から得た製品化や、女性をターゲットとした商品の開発や広報戦略などがあります。すでに日本でも多くの企業に実績があります。

りそな銀行は、2003年の設立当初から「女性に支持される銀行No.1」を目指して、さまざまな取り組みを展開しています。社内での女性の活用促進にも熱心で、社外からの評価も高く、数々の受賞歴があります。他行が男性をターゲットとしてきた保険や住宅ローン、投資ファンドなどについても、女性が利用しやすいメニューを開発して新たな顧客を獲得し、ビジネスを発展させています。

茨城県つくば市に本社があるモーハウスでは、女性のCEOが自らの経験に基づいて、外出先でも授乳しているとわからない自然に胸部が隠れる「授乳服」を製造・販売しています。

この商品を通じて、赤ちゃんのいる女性でも気軽に外出できる、さらに言えば母親になっても子どもの世話だけではなく女性も自分らしく暮らしてもいい社会づくりを提案しています。新しい価値観を提案した商品は広く支持され、今日では、20億円規模の新たな市場を開拓しています。

■自社のビジネスを用いて、より良い社会に
さらに、原則5では、ビジネスの影響力を駆使して、サプライチェーンや取引先などと連携して性差別のない社会に変えていこうとすることが特色です。しかし、こうした連携の取り組みは、日本の企業はあまり得意ではありませんでした。

CSRに熱心な企業は、サプライヤー行動規範に基づいて、サプライチェーン・マネジメントを実施して、サプライヤーを評価するようになっています。しかし、その内容は、環境以外では、児童労働や強制労働に関しての項目が多く、ジェンダーやダイバーシティの視点はほとんどありません。 

第2号でもご紹介したアパレスメーカーのクロスカンパニーは、WEPsの署名をきっかけに、サプライヤーに働きかけて、海外にある縫製工場の女性労働者の労働環境についての調査を始めました。同社のCEOは、ときにはライバルとなり、ときには利益がぶつかり合うこともある同業者や取引先の企業のCEOにもWEPsの署名を働きかけて、業界として女性のエンパワメント促進によるビジネスの底上げを目指しています。

諸外国の企業では一歩進んでいます。サプライチェーン・ダイバーシティ・プログラムを策定し、女性と主に中小企業のサプライヤーとを結び付けて両者の成長と購買層の拡大によるビジネスの展開を目指しています。他方、社内で飲み物や軽食を販売する女性の起業家のベンダーと契約してビジネスを立ち上げてから軌道に乗るまでを支援する例があります。
 
前々号の国連WEPs会合の最新状況でもご紹介したとおり、3月のWEPs年次会合では、全世界的に、女性のエンパワメントを具体化するための、サプライヤーにおける多様性確保とテクノロジー活用の重要性が大きなテーマとなりました。

女性が経営する小規模の経営者や女性の起業家と取引をすることも推奨されます。また、企業のビジネスや製品が、人身取引や性的搾取に関与しないよう求めています。今後日本でもますます進展が期待される分野です。
 
また、サプライチェーンと連携する取り組みは、事業所の基盤である地域コミュニティにおける女性のエンパワメントにも貢献します。次回は、WEPsの原則6「コミュニティにおけるリーダーシップと参画」に沿ってこのことをご紹介します。

【WEPsの原則5】企業開発、サプライチェーン、マーケティングの実務
a. 女性が経営者である企業との取引関係を発展させましょう。これには、零細企業や女性の起業家が含まれます。
b. 信用貸しや貸付への障壁に対する、ジェンダーに敏感な視点での解決策を支援しましょう。
c. 取引先や同業者に、平等とインクルージョンを前進させる企業の関与を尊重するよう求めましょう。
d. すべてのマーケティングとその他の企業活動において、女性の尊厳を尊重しましょう。
e. 企業の製品、サービス、設備が、トラフィッキング(人身取引)および/または労働の搾取や性的な搾取に使われないように保障しましょう。

(この記事は、株式会社オルタナが2013年6月5日に発行した「CSRmonthly 第9号」から転載しました)

大西祥世
グローバル・コンパクト研究センター研究員
博士(法学)専門は憲法、ジェンダーと法・政策。主著に『女性と憲法の構造』(信山社、2006 年)『ポジティブ・アクションによる女性のエンパワメントと平等推進―国連グローバル・コンパクトの新たなチャレンジ』(法學志林109 巻1 号、2011 年)『グローバル化における企業の公法上の位置づけ』(公法研究74 号、2012 年)など。

2015年6月1日(月)20:33

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