統合報告に挑むために、どの本を読むべきか[中畑 陽一]

財務報告のみならず、リーダーシップや知財、ESG(環境、社会、ガバナンス)などの非財務情報を含めて、価値創造ストーリーとして開示する新しい時代の企業報告である統合報告。海外主導で始まった統合報告ですが、日本でも右肩上がりで急速に広がりを見せ、今年大手企業中心に200社以上が発行、来年新たに発行を考えている企業も多い事でしょう。そこで今回は企業のリーダー層始め、実務担当者が参考にできる本の数々をご紹介します。(IR・CSRディレクター=中畑陽一)

■最初に読むべきガイドライン

多くの関連書籍が出ているが、扱う内容はさまざま。目的に合わせて指針となるものを選びたい
多くの関連書籍が出ているが、扱う内容はさまざま。目的に合わせて指針となるものを選びたい

まず前提として、書籍ではありませんが、統合報告を進めるうえで把握すべきガイドラインをご紹介します。国際統合報告フレームワークGRIガイドライン(第4版)OECD多国籍企業行動指針ISO26000、そして日本ではコーポレートガバナンス・コード、といったものが挙げられるでしょう。

それらは概して非常につまらないもので、また難解でもあり、読んでいて眠たくなることもあるかもしれません。しかし極めて重要なものなので、覚えてしまう必要はありませんが(全部覚えている人はいないと思います)、必ず一読する必要はあるものと思います。そのうえで、統合報告の参考になる市販本をご紹介します。目的によってどの本を選択すべきかの参考になればと思います。

■統合報告の本質をつかむ

まず、必読と言ってもいいのは今年6月に出版された『統合報告の実際』(2015)でしょう。国際統合報告評議会カウンシルメンバーのロバート・Gエクレス氏らによる本書では、国際統合報告フレームワーク(以下FW)の策定の経緯やその狙いと課題、さらには優良事例の分析から統合報告の重要概念であるマテリアリティについての深堀、そして統合報告の将来の可能性まで包括的にまとめられています。

それらは詳細で、本質的かつ公正であり、多くのデータや研究と深い分析をベースに書かれており、情熱と信念を感じるものとなっています。統合報告について何か読もうと考える方はぜひともこの書をお読みください。まさにあなた自身が、この壮大なプロジェクトの一員なのだと感じて力を得ることでしょう。

両氏が以前発行した『ワンレポート』(2012)では、透明性の高い報告を行い、社会課題に取り組む企業の経営成績が良いことを数々のデータと共に示しながら、新しい時代の報告の在り方を炙り出し、ノボ・ノルディスクやUTC、リコーと言った統合報告の先駆的企業の事例を挙げつつまとめ上げており、こちらも統合報告の経緯を知るうえで大変参考になるかと思います。

■統合報告を実務の観点から理解する

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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