[書評]最難関の無農薬イチゴを自然栽培で安定供給

このエントリーをはてなブックマークに追加

無農薬での栽培が最も難しいと言われるイチゴ。とりわけビニールハウスでの栽培は病害虫にさらされやすい。『希望のイチゴ~最難関の無農薬・無肥料栽培に挑む~』(田中裕司著、扶桑社刊 税込1080円)は、農薬も肥料も一切使わずにハウスイチゴの安定供給を実現させた自然栽培農家の苦労の日々を描いた本だ。(オルタナ編集委員=斉藤円華)

■有機=安全・安心ではない?

『希望のイチゴ』表紙

『希望のイチゴ』表紙

露地栽培のイチゴの収穫時期は4月から6月。これに対して、ビニールハウス栽培と品種改良の普及により、11月下旬から春までの収穫が可能に。冬の「クリスマスケーキ特需」にも対応できるようになった。

ハウス栽培のカギは、イチゴが実を結ぶ春の気候を擬似的に作り出す点にある。つまり生育環境を人工的に操作するということだ。しかしハウス内は高温多湿となり、病害虫の活動もさかんとなる。ところがイチゴは病害虫に弱い。長崎県のハウス栽培イチゴでは、農薬使用回数が平均で65回にも上るという。これは青森産のリンゴのほぼ倍に相当する。

本書に登場する愛知県豊田市の自然栽培農家、野中慎吾さんはハウス栽培イチゴの無農薬・無肥料栽培という「最難関」に挑む。しかも1年だけの成功ではなく安定供給の実現が目標だから、ハードルは非常に高い。

野中さんがどうやってこの難題をクリアしたか。試行錯誤を重ねる中から、肥料を与えすぎることによって逆に作物が弱り、病害虫に襲われやすくなっているという事実を野中さんはつかみ取る。肝心なのは土の中の微生物の豊富さであり、作物と微生物との「共生関係」を育むのが自然栽培の要諦ということだ。

農薬を使わない有機栽培では、虫に食われた作物も安全と評価されることがある。ところが害虫は肥料の与え過ぎで窒素分が過多となった作物を好んで食害。植物内の残留窒素、すなわち硝酸態窒素は発ガン性が指摘されている。有機イコール安全、安心とも限らない。読者の常識をくつがえす一冊だ。

2016年4月22日(金)11:30

alternaショップ
ページの先頭に戻る↑