ニール・ヤング「さよならスターバックス」で考えた

三輪 昭子
愛知学泉大学 准教授
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実は、今年になってから、少し消費活動を切り替えてみました。

例えば、スターバックス。私の住む地元、名古屋に進出して以来かなりの頻度で長時間滞在し、時には仕事をしました。いわゆる常連として居座り、そのおかげで新製品のテイスティングを各種させていただき、客として優遇されてきました。そんな状況にある私はお得意さんとしての地位を得ていて、どの地区に行っても必ずスターバックスのお店に行ったものでした。いつもドリップコーヒーばかり、しかもSサイズばかりで売り上げの貢献度は低いものでしたが、タンブラーをいくつか購入し、それを愛用していました。

しかし、そういった日々に別れを告げました。

きっかけは、ニール・ヤング。知る人ぞ知るロック歌手です。彼はカナダ出身、アメリカで活躍し、1960年代の伝説的なウッドストック・フェスティバルに出演していたことからも、よく知られている存在です。

疑問に思われる方は多いことでしょう。彼が何をやったのか、と。そう、彼はやってくれたのです。それを、2014年に彼自身の公式ウェブサイトで知ったのでした。

それは「GOODBYE  STARBUCKS!!!」宣言です。

なぜ? 誰もが、彼に何が起こったのだろうと気になる部分です。

理由は、とあるアメリカの訴訟問題です。遺伝子組み換え食材の使用を明記する制度を条例化したアメリカ・バーモント州に対して、アメリカのバイオ化学メーカー・モンサントが条例を差し止める訴訟を起こしていたのです。ニール・ヤングは、このモンサントの訴訟にスターバックスが加わっていることに声を上げたのです。スターバックスは一般市民、社会を相手にする企業ですから、その影響力は大きいと思われます。そのスターバックスが訴訟の支持を止めさせられるようにという目的で、今回のニール・ヤングの宣言があったのです。

問題はモンサントという企業です。モンサントはどんな会社なのでしょう。

モンサントは、かつてはベトナム戦争の際にアメリカ空軍が空からバラまいた枯れ草剤を製造、その後、牛成長ホルモン剤、除草剤のラウンドアップ、GMO(遺伝子組み換え作物)などで事業拡大をしてきました。とりわけ、GMOについては世界シェア90%を占めています。そこに危機感を覚えたニール・ヤングはモンサントの主義主張に同調しているとしてスターバックスを名指しすることで、消費者に知らない間に侵されていく食への危機を訴えかけたのです。

モンサントという企業は、日本でも2010年に公開された『フード・インク』に登場していて、これを観たことがある人なら危機感を覚える内容でした。さらに、「今やスーパーの加工食品の70%に遺伝子組み換え素材が使われる」と指摘する映画が映し出したのは、空中から多量に散布される農薬や、ブクブクに太らせるだけ太らせて数歩歩くだけで足が折れてしまう鶏が密集する飼育小屋です。最近では『遺伝子のルーレット〜私たちの生命のギャンブル』で、GMOが健康を悪化させる恐れのあることを教えてくれています。

さて、ニール・ヤングの話に戻りましょう。

彼は、その後2015年になっても主張を変えることなく、声明を自身のサイトでアップしています。

「食べ物の中身を知る権利を求める人々に対して、その主張を負かそうとする企業を支援するつもりはない」として、改めて「モンサントとスターバックスは同盟を組み、バーモント州を提訴している」という主張を繰り返し、「スターバックスは、自社の製品にGMOが含まれているのかどうかという、こちらからの設問に反応しなかった」と批判しています。

ニール・ヤングは、さらに反モンサントを訴える活動をしています。ウィリー・ネルソンの息子たちが所属するバンド、Promise of the Realとコラボレーションし、反モンサントを訴えるアルバム『The Monsanto Years』を同年6月にリリースしました。7月には「反モンサント」ツアーを実施しました。

モンサントという企業に対して、2016年5月に欧州や日本でも  「反モンサント」のデモ行進が行われています。遺伝子組み換え栽培地での生態系破壊、住民のガンや出生異常などの健康被害、世界の消費者や家畜の健康被害の懸念、さらには遺伝子組み換え企業による食料生産の支配への懸念に対して立ち上がったものでした。

モンサントのような企業が「安全です」と喧伝しているGMOに対し、「安全ではない」と立証していくことは難しいと思います。2015年上映された『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』というドキュメンタリー映画を観ると、モンサントをはじめとした遺伝子組み換えビジネスが「何が安全か」をはぐらかし続けることによって規模を拡大してきた危うさが浮き彫りになっています。

常套句として彼らは、「GMOが飢餓を救う」と繰り返します。また、企業広告として「10億人には十分な食料がありません。我々が直面している課題は人口の増加です。食料供給を増やし、不足している所に届けるのが我々の課題です(トム・ウィルトラウト/ダウ・アグロサイエンス社)」「10億人が飢えています。その多くは小さな農家です。世界の食料危機を解決できるのは我々です(ヒュー・グラント/モンサント社)」。

多額の広告費を使って、何度も彼らの常套句が繰り返されると、それが正義の主張に思えてしまいます。しかし、映画の中でミレニアム研究所代表のハンス・ルドルフ・ヘレンが次のように断言しています。「私たちは1人1日当たり4600カロリー分の食料を生産しています。必要な量の2倍です。すでに、140億人に十分な食料を生産しているのです。食料が足りないと主張するのはバイテク(バイオテクノロジー)産業です。」

そうです。食料が足りていないのではなく、分配が適切ではないのです。「飢餓を救う」「食料危機を解決する」というのは、受け手を勘違いさせようとするレトリックでしかないのです。

ニール・ヤングの宣言からの、これまでの動きを知って、私自身もスターバックスに別れを告げました。それは、個人的な別れで、他者にその意思を大きく示したわけではありません。しかし、これまでスターバックスに入り浸っていた私の行動が変わったことから、友人知人たちは疑問を呈し、その私の変化について尋ねてきます。それで、彼らは知るのです。私の消費行動は、エシカル(ethical:倫理的な)主張の結果なのだと。

三輪 昭子
愛知学泉大学 准教授
愛知教育大学大学院修了(教育学修士)。愛知県立高校、学校法人河合塾経営の日本語学校勤務後は、大学の講師。現在は愛知学泉大学現代マネジメント学部准教授(ソーシャルマーケティング、公民科教育法担当)。主著は『映画で地球を読むー地球市民のための教養講座』黎明書房、共同執筆の論文に「コーズ・リレイティッド・マーケティング概念の方向性」愛知大学国際問題研究所紀要。コトラーの『GOOD WORKS!』の翻訳チームに参加。

2016年6月11日(土)20:22

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