ドラッカーに学ぶ「志を共有する経営」――われわれは、お客様にとって何者か?

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多摩大学総合研究所客員研究員、ドラッカー学会 会員、株式会社アットパス 代表取締役 小池 勝也

「なぜ自ら考え動こうとしないのか」。これは、多くの経営者やリーダーが部下に対して持つ悩みである。しかし、一方で部下は、「上は言うことがくるくる変わってやっていられない」と不満を持っている。お互いに会社や組織をより良くしようとする気持ちはあるのに、なぜ、このような不幸なすれ違い、意識の溝が生まれてしまうのだろうか。この状態を放置すれば、組織は情熱を失い、利益のよりどころである顧客の存在を見失ってしまう。

では、どうしたらこのような不幸なすれ違い、意識の溝を埋め、組織をミッションの実現に向けて一つにすることができるのか。これが、私の問題意識である。

私は社会人としての人生の半分を会社員として、そして残りの半分を経営者の端くれとして生きてきた。会社員の時は、成果をあげられないとその原因を上司のせいにした。経営者になっても、思い通りにならないことがあると外部環境のせいにして自分を甘やかしていた。組織の行動と成果に対して、最終的な責任は全て経営者である自分にあるという当たり前のことを忘れていたのである。

独立後、一度事業に躓いた私は、大学院に入ってもう一度経営というものを一から学ぼうとした。そこで出会ったのがドラッカーである。私は一人の経営者として、また、社会貢献型企業の経営戦略、CSRを学ぶ研究者として、今も冒頭の「不幸な意識のすれ違い」と格闘し続けている。そんな私にドラッカーは、「マネジメントとは何か、なぜマネジメントが必要か」ということを教えてくれる。

ドラッカーが私のために残してくれたのではないかとも思える珠玉の言葉の中で、私にとって最も重要と思う二つの言葉がある。一つは、「仕事とは成果をあげることである」という戒めであり、もう一つは、「成果をあげる能力は習得できる」という励ましである。

では、組織を具体的な行動に導き成果をあげるために、われわれは何を指針とすれば良いのか。その為の経営ツールとして、ドラッカーは、「5つの質問 –The Five Most Important Questions-」を残している。この5つの質問は、自分自身の考えの助けとなり、組織における検討と決定の助けとなる。経営や組織運営に直接関わる人達は勿論、スタッフ一人ひとりにおいても、自分が所属する組織で、以下の5つの質問に簡潔明瞭な答えを持っているかを確認することは、貴重な時間を使ってでも行う価値がある。

質問1.われわれのミッションは何か?  What Is Our Mission?

“ミッションを成果に結びつけるには、機会と能力と意欲が必要である”

ミッションとは、組織の存在理由であり目指すべき成果とするものを明確に規定したものである。ミッションはメンバーを成果に向けた行動に駆り立てる活力となり、これを見失った組織は、競合他社の様子をうかがって右往左往するだけの集団になってしまう。組織を際立たせることができる唯一のものがミッションである。それは顧客から社会的、経済的な存在価値を認めてもらうためものであり、メンバーやパートナーには精神的、経済的な報酬を与える源泉となる。

質問2.われわれの顧客は誰か?  Who Is Our Customer?

“成果をあげるためには、活動対象としての顧客に焦点を絞る”

われわれは、誰を満足させたとき成果をあげたと言えるのだろうか。その相手こそ、組織の顧客である。ドラッカーによれば、活動対象としての顧客とは、組織が提供するものによって生活と人生を変えられる人達だと述べている。すなわち顧客とは、組織が掲げるミッションに共感し、組織が持つ強みに気付かせてくれ、どのような価値を提供すべきか、どのように価値を提供すべきかを教えてくれる存在ということになる。またドラッカーは、顧客には活動対象としての顧客のほかに、パートナーとしての顧客が存在することを明らかにしているが、成果をあげるためには、その焦点はあくまでも活動対象としての顧客に絞らなければならないと指摘している。

質問3.顧客にとっての価値は何か? What Does the Customer Value?

“顧客にとってのニーズ、欲求、期待は、顧客本人にしか答えられない”

ドラッカーは、顧客が何に価値観を見出すかという問いに答えようとするならば、答えを想像するのではなく、必ず、顧客から直接答えを得なければならないと述べている。あのドラッカーが、大学院の経営に関わっていたときには大学院が提供する価値について、毎年、数十人の卒業生に電話して、「今でも役に立っているものは何か。どうしたら改善できるか。私達が止めるべきことは何か」と聞いていたという。顧客の声を直接聞かなければ、新製品のアイデアは生まれてもマーケティングの差別化はできず、自らの成果を評価することもできないのである。

質問4.われわれにとっての成果は何か?  What Are Our Results?

“強化すべきものと廃棄すべきものの識別”

企業では、成果の尺度としての利益がある。しかし、ドラッカーは、本来の成果とはそうした組織の内部にではなく、一人ひとりの人間の生活、人生、環境、健康、期待、能力の変化となって組織の外の世界に表れると指摘している。また、ドラッカーは、ミッションと自らの強み、組織が置かれた環境を成果に結びつける上で、もう一つ重要な質問を投げかけている。すなわち、ヒト、モノ、カネ、時間という資源を投ずることを正当化できるだけの成果を生み出しているかという問いである。われわれが求める成果を明らかにすることによって、陳腐化し硬直化した製品、考え方から脱皮し、計画から得られる成果を追及するのではなく、求めるべき成果から計画を立てることの重要性を教えてくれている。

質問5.われわれの計画は何か?  What Is Our Plan?

“全員が計画を自らのものとする”

計画には、ミッション、ビジョン、ゴール、目標、行動、予算、評価が織り込まれる。ドラッカーは、ミッションを実現するには、明日のゴールと今日の行動が不可欠であり、その計画における5つの要素として、廃棄、集中、イノベーション、リスク、分析を考慮しなければならないと説く。ミッションとゴール、目指すべき成果を基にした計画ではなく、単に前年度の実績に対して希望的な成長率を乗じただけの計画では、組織は短期の利害得失を調整することができず、冒頭に記したような状況に右往左往することになってしまう。

ドラッカーは、これら5つのシンプルな質問に答えることは、「組織の目的は何か、その計画は何か。つまるところ『何をもって憶えられたいか』」に答えることであると述べている。これを私流に解釈すれば、マネジメントとは、「われわれは、お客様にとって何者か?」という問いに答えるために組織の意志、行動をまとめ上げる一連の作業であり、「志を共有する経営」への限りなき挑戦なのだということを教えてくれるのである。

5つの質問は、あまりにシンプルな言葉で構成されている。その為、「何をいまさら」と感じる人もいるかもしれない。しかし、多くの組織において、それも一度でも成功体験を持つことができた組織ほど、定期的に5つの質問を問い直すことで、顧客や機会の変化、それに対応すべき自らの強みは何かということに気付かせてくれる。

成果をあげることのできない組織には、必ずマネジメントの問題が存在する。問題を抱えて悩んでいるから、皆がその解決の糸口を見つけようとドラッカーの本を開く。そこに記された言葉は余りに膨大で深いが、真摯にドラッカーの言葉と向き合う時、ドラッカーは必ず更なる一歩を踏み出すヒントと勇気を与えてくれるのである。

志をもって、仲間と共に夢を実現したいと願う全ての人達にとって、ドラッカーはいつも傍にいるのである。

2010年8月4日(水)0:00

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