「スポーツ」と「CSR」のかい離

SDGsを掲げた日本スポーツ界初のリーグ統合社会的責任イニシアチブ B LEAGUE Hope についての先回のコラム「B.LEAGUE、日本初のスポーツの社会的責任イニシアチブ」では「SSR(スポーツの社会的責任)」という観点を紹介したが、今回は敢えて「CSR」と「スポーツ界」がかい離した日本の現状について触れてみたい。

■「社会の専門家」の不在

米国では「社会の専門家」がSSR(スポーツの社会的責任)の取り組みを進める

まずはSSRについて、少し復習しておくと、SSRというのは、主にプロスポーツチームやリーグなどが行うCSR活動のことで、各チームなどが「スポーツの知名度とチャネル力(影響力)を有効活用し」、スポーツ独自のやり方で社会的責任を果たしていく活動のことだ。

世界では様々な活動が実施されており、CSRという言葉も多用されるが、実質的にSSRとしての活動を実施していることに誇りを持っている関係者は少なくない。また、一般企業のCSR活動との連携も多く、スポーツだからこそできる役割を「主体的に」果たしていることが特徴だ。

今回注目したいのは、このSSRを担っている人材についてだ。欧米と日本の決定的な違いは、欧米では国連などの国際機関や著名な国際NGOで活躍する人材がSSRを担っている、という点である。つまり、SSRは、ソーシャル分野での専門性や経験、スキルがないと担えない業務だということだ。

実際、NBAのSR部門幹部やスタッフの前職は元ホワイトハウス職員や国際NGOで、あるチームのSR担当は数年前にUNICEFに転職した。そしてメッシやネイマール、本田圭佑などワールドカップ級の選手が所属する欧州各国サッカーリーグの統括団体であるUEFAのSRトップは元ICRC(国際赤十字)職員、といった具合だ。

しかし、日本ではこのような動きはほとんど聞いたことがない。そもそもSR部門がこれからという段階であるから当たり前といえばそうだが、現状、日本スポーツビジネス界には、「社会の専門家」がほとんどいない。

これまで国際NGOとの連携などの事例はいくつかあっても、スポーツチームやリーグが「主体的に」関わっている構図というよりは、「使われている」印象が残るもの、海外の事例のコピーものが多かった記憶がある。

■コミュニティへの還元が大原則

社会貢献活動は大切である。これに意義を唱える人はいないだろう。しかし、最も重要なのは、「どのように行うか」である。とくに日本のスポーツビジネス界では、この点について気がついている人は少ない。

もちろん、スポーツ選手が個人的にポケットマネーを使って社会貢献活動をするのは基本的に自由である。だが、チームやリーグの活動は、「社会にとってよさそうなこと」をなんでもすればよい、というわけではない。なぜか。

それは、チームやリーグの資金は「事業」を通して稼いだものであり、その資金を活用する活動は事業へのメリットが不可欠だからである。つまり、プロスポーツチームやリーグが実施する社会的責任活動は、「それぞれのチームやリーグが事業を展開するコミュニティ」への還元であることが大原則ということだ。

たとえ直接的にファンを支援することではなくても、チームや協賛企業の事業基盤があり、ファンが生活するコミュニティの健全化に貢献することが前提にあるのである。

だからNBAは、マーケットエントリーのアプローチとして社会貢献活動を実施する以外は、世界で震災などがあっても、マーケット以外の地域の支援活動はしないし、私も、日本をマーケットとするBリーグに、海外支援活動を勧めたことは一度もない。

もちろん、一般的に海外支援は必要だし、するべきだ。だがそれは、「スポーツの社会的責任活動として、日本だけをマーケットとするリーグが優先して主体的に実施すべきこと」ではない。SDGsを掲げていても、それは海外支援をするということではなく、事業を担う地域(日本)においてその責任を果たす、ということだ。

誤解しないでいただきたいのだが、社会貢献活動をするなと言っているわけではない。むしろ、どんどん実施してほしいし、これまでも私はそのための活動をしてきた。強調したいのは、折角やるのなら、よりよい方法でやりましょう、ということだ。選手のトレーニングと同じで、やり方を工夫すれば、チームのビジネスとコミュニティの双方にとってのメリットが大きく、効果が期待できるからだ。

そして、このようなSSR活動のスコープ(範囲)を理解し主体性をもって活動をデザインしていくには、やはり社会の専門家がスポーツチームやリーグのスタッフとして採用される必要があることも付記しておきたい。少し時間はかかるだろうが、今後の展開に期待したい。

まずは私にできることとして、SSRを担う人材育成を目的として最近SSR Hubを立ち上げたので、ここに紹介したい。まだパイロット段階で小規模に展開しているが、課題レポートの成績優秀者には、スポビズVIPとの豪華ランチにもご招待するという企画なので、ご興味あればぜひSSR Hubにご登録を(登録は誰でも可能、ランチは25歳以下対象)。

◆スポビズVIPランチ@SSR Hub
http://viplunch.peatix.com/view

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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