「事業性」「独創性」「社会性」が重なるビジネス ―― フェリシモ矢崎和彦社長インタビュー

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聞き手; 木村麻紀

矢崎和彦
1955年生まれ。78年に父が創業した株式会社ハイセンス(現フェリシモ)入社。87年より代表取締役社長。

自社開発の衣料品や雑貨などを、カタログやウェブサイトを通じて全国約163万世帯に販売するフェリシモ。 矢崎和彦社長は「事業性」「独創性」「社会性」の3つが重なる領域こそ、フェリシモの目指すべきビジネスだとする。なぜ、そのような考えに至ったのか―。

――矢崎社長は常に「事業性」「独創性」「社会性」の3つを満たしている領域こそがフェリシモの目指すビジネスと唱えられてます。いつ頃からそのように考 えるようになったのですか。

以前からずっと思っていましたが、特にバブルの頃に「企業メセナ」ということがさかんに言われた時から意識し始めました。

フェリシモも企業メセナ協議会の会員ではありますが、そもそもすごく利益が上がっている企業の利益の一部と、小さな会社の利益の一部とでは、スター ト地点でだいぶ違うもの。それに、利益の一部を寄付するというのは悪くはないけれども、それだけではないはずだとずっと思っていました。

事業性と独創性を追求することで文化に貢献する、社員のモチベーション向上につなげる、というのはある程度理解されたんですが、そこに社会性の追求 を入れると「いや、それは無理だ」と言われることが当時は多かったです。

ビジネスに携わっている人たちから見ると、事業ばかりやっていてはダメなので社会的にプラスになることをやる、ということでメセナ的な考えに行き着 くのでしょう。一方で、NPOなどを通じて社会活動をしている人たちは、ビジネスを罪悪視する見方を持っている場合が少なくありません。どちらに対しても 「そんなことないのになあ」と思っていました。

フェリシモ矢崎和彦社長そんな折、あの阪神・淡路大震災が起こりました。私どももボランティアとして復旧のお手伝いをさせて いただきましたが、その過程で確信したのです。事業性と独創性、社会性というのは二律背反するものではなくて両立できるものだということを。

当時、被災地域には全国から大勢のボランティアがやって来て活動していて、話題にもなりました。これはまさに、ピュアに他人のことを思う気持ちから の社会的な行動だったと思いますが、私は現場で見ていて「これでは長くは続かないだろうな」と思っていました。皆それぞれ、自分の生活がある訳ですしね。

よって立つ基盤がないと続かない。つまり、事業性がないと社会性が続かないということを確信したのです。それ以来、事業性、独創性、社会性とは両立 可能なものだと声高に言えるようになりました。それとともに、ビジネスイコール悪ではない、やり方次第なんだ、ということを徐々に理解していただけるよう になった感じがします。

――社外の理解が進む一方で、社内ではどのような形で「事業性」「独創性」「社会性」を定着 させていったのですか。

本社を大阪から神戸に移転したことは大きかったですね。物理的に移転したというだけでなく、自分たちの役割も変わるんだということを意識することが できたのだと思います。

父親が家業としてこの会社を創業した頃、会社の一角にガラス製の広口ビンを置いていて、そこにお客様から来る手紙などに付いてくる古切手を外して入 れていたんですね。そのビンには、パート従業員の皆さんに対して「ご家庭に古切手があれば持ってきて下さい」と書かれていました。いっぱいになった古切手 を送ると、ネパールの子どもたちにワクチンを届けられる、というのをどこかで知ったんでしょうね。父はそれをずっと続けていました。

私にとっては、これが常々訴えている「自分たちができる社会文化活動」であり、わが社のいわばCSR(企業の社会責任)の原点です。当時から、自分 たちでできないことはやっていないんですね。それぞれの役割に応じた日常活動の中からちょっと意識をして動き出せば、誰でも社会に貢献できる、社会を変え られると本気で思っています。

――自分たちができるCSR、というのが大切なんですね。

そう思います。日本企業のCSR活動を見ていると、独創性のなさを感じてしまいます。CSRが大切と言われ始めたから部署を作ってやる、とかね。 CSRは「はやり」でやるものであってはなりません。

なぜ、こんなことになるのか考えてみた時、やはり「無理をしている」からではないかと思えてきます。無理をするから成功しない、長続きしないので す。

私は企業活動には2種類あると思っています。1つは、何か新しいことをするために、外から資源を獲得するモデル(資源獲得型)。もう1つが、既に あるものを活用する資源活用型モデルです。CSRは、資源獲得型よりも資源活用型のほうが絶対にうまくいくと思っています。業態に応じて、求められる役割 は違います。日本では、特定のことに対して本来役割を果たすべき業態が何もせず、別の業態が求められてもいないことをやっているケースが、あまりにも多く 見受けられます。求められる役割に応じた社会貢献のあり方というのは、各社で違って良いと思うのです。

ただ、自分たちにできることを始めるのはCSRのとっかかりとしては非常に大切ですが、それをずっとやっていたのでは、ある時に限界が来るでしょ う。外から刺激をいただいて発展させることもできますが、私はやはり社員自らが心の底から本当にやりたいと思うことをやることが重要だと思っています。そ れが、組織としての力になればもっと強い。

わが社の例で申し上げますと、続けているうちに実を結び、成功していくんですよ。例えば、お客様に毎月100円寄付していただく「フェリシモの森基金」。93年からインド東部での森づくりを進めているのですが、続けているうちにその地域 に象が戻ってきたりして、社員もびっくりする訳です。

各界で活躍する著名人がデザインしたお皿の売り上げの一部を世界の子どもたちのための事業に寄付する「トリビュート21プレート」も、 続けているうちにものすごく有名な人たちまでがデザイン協力してくれて、お皿も売れる、といったようなことが起きています。

このような成功体験は、社員個人のDNAに刻み込まれます。そうすると、会社の外に出ても一個人として日常生活で色々なことを見聞きし、それを仕 事に反映することができるのです。センサーは多ければ多いほど、良いものが生まれやすくなります。

――「フェリシモの森基金」や「トリビュート21プレート」は、フェリシモの目指す「事業性」「独創性」「社会性」の3つを満たす取り組み、ということで すね

フェリシモ矢崎和彦社長その通りです。この2つはどちらかと言うと、社会貢献のウエイトが高いのですが、ファッショナブルで なおかつ環境に配慮した雑貨ばかりを集めたカタログ「ecolor(エコラ)」は、「事業性」「独創性」「社会性」の3つを満たす取り組みとして典型的なものだと 思います。今、エコラは非常に伸びていますが、これは今後もっと大化けするかもしれないと私は思っています。

エコロジーは、ファッショナブルであることが大切だと思います。それと、楽しいことも重要です。世の中には、エコロジカルだけれども楽しくないも のがまだまだたくさんあります。私たちは、これをファッショナブルで楽しいものに変えていけると思ってやっています。また、楽しいけれどもエコロジカルで ないというものはもっといっぱいある。これも、私たちで変えられると思っています。

もちろん、既にある事業に磨きをかけることによっても、「事業性」「独創性」「社会性」を追求できます。

例えば、トリビュート21プレート。今年は、四川大地震の救援に絞って展開します。開発コードはずばり「パンダ(PandA)」。フィロソフィー&アク ションの頭文字でもあります。世界の著名人21人にご協力いただき、パンダのアートワークを寄贈してもらってプレートにします。このコンセプトでご相談申 し上げたところ、中国の大手出版社を通じて中国人の著名人を数人ご紹介いただきましたし、日本でもこれまではなかなか応じて下さらなかった方が協力して下 さる、といった反響が出ています。

プレートの制作はもう15年ほど続けていますが、こうした既存の事業でも、少し出し方を工夫していくことで共感の輪がぐっと広がるのです。

今カタログとして出ているものは、私たちが過去に考えていたこと。今、私たちが考えていることはとても面白い(まだ言えませんが、笑)。カタログ の事業ブランドは今約10種類ありますが、それぞれあっても思いは同じなので、それぞれのカタログの中でどう3つの輪を表現できるかという点に集中して、 日々格闘しています。

2008年7月29日(火)21:17

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