熱い夏の働き方を考える、ノマドワークという選択

今年の夏の暑さは尋常ではなかった。6月から8月の平均気温は、関東甲信・東海・北陸地方で平年に比べて+1.7℃。1946年の統計開始以降、最も暑い夏だった。2020年の夏には東京でオリンピックが開催される。猛暑にスーパーセルによる激しい雷雨、大型化する台風、それに加えて訪日外国人による混雑。想像しただけで暗澹たる気持ちになる。真夏の東京は、果たして落ち着いて仕事ができる環境だろうか。

現在、遊休施設となっている「矢保利の館」 長野県上水内郡信濃町

■「テレワーク・デイズ」はオリンピックの交通緩和が背景に?

さて、働き方改革が叫ばれているが、「テレワーク・デイズ」(※1)という国民運動があることをご存じだろうか。2020年に向けた国民運動プロジェクトで、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府が東京都とその関係団体と連携し、2017年からテレワークの全国一斉実施を呼びかけている。テレワークとは、ICT(Information and Communication Technology)を活用して場所や時間にとらわれず柔軟な働き方をすること。

2018年は、参加企業・団体が7月23日(月)〜27日(金)の1週間の中の7月24日(火)を含む2日間以上を「テレワーク・デイズ」とすることで実施された。ちなみに7月24日は2020年東京オリンピックの開会式の予定日だ。

この運動の背景には、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで観光客が集まることで予想される交通混雑がある。混雑回避の切り札としてテレワークを推奨しているわけだ。ロンドン大会では、企業の約8割がテレワークに協力し市内の混雑を緩和したのだそうだ。(※2)

個人的には、かなり動機が不純だと思う。笑 お上からの(一方的な)推奨を「国民運動」と呼ぶことにも違和感を覚える。オリンピック期間中は暑いし、混雑するから企業はどこか他所に行って仕事をしてくれ!ということなのか。

■ICTを活用した働き方改革に大きな期待

それはともあれ、ICTの活用により、働き方の自由度が広がることは歓迎だ。そんな中で、北信州の信濃町と特定非営利活動法人Nature Serviceが「信濃町ノマドワークセンター(仮称 以下 ノマドワークセンター)」の開設を発表した。

街の有休施設だった農山村交流体験施設「矢保利の館」をリノベーションし、テレワークに対応した施設に改装する。Nature Serviceは、隣接する「やすらぎの森オートキャンプ場」(※3)の企画運営も担っている団体。町が有していた公共キャンプ場にICTを導入し大胆にリニューアルさせた。2018年のキャンプ場利用者は約3,500人泊にも及んだという。また、このキャンプ場運営のシステムは、株式会社マネーフォワードがクラウドサービスを活用して革新的なバックオフィスを実現している企業を表彰する「クラウドサービスアワード2018」の優秀賞に選ばれている。

ノマドワークセンターは2018年10月に着工し、竣工は2019年。通常のインターネット設備、オフィス設備のほか、3Dプリンターなどを導入したメイクラボ(工作室)や溶接などもできるガレージも用意する。また、東京ドーム1.8個ほどの広さを持つキャンプ場の敷地ではドローンやロボットの実証実験場にする予定。5月には内覧会を予定し、来年の夏には企業のテレワーク支援が可能になる。

ノマドワークセンターに隣接する「やすらぎの森オートキャンプ場」 長野県上水内郡信濃町

■CSRにもなるノマドワーク

ノマドワークセンターの興味深いところは、リゾート感覚でテレワークを簡単に実現できるところだろう。すでに地方型のサテライトオフィスは国や自治体が推奨しているし、総務省の「お試しサテライトオフィス」の制度もあるが、いざやろうとなると不動産の取得や改装工事、さらにはスタッフの雇用や施設維持管理などそれなりにハードルが高い。この施設なら、もっと気軽に必要な期間だけ自然に囲まれた環境でテレワークやワーケーション(※4)を実現できる。

ICTを活用し会社以外の場所で通勤時間などにとらわれず仕事をするテレワークは、都市部の交通混雑緩和というようなネガティブ解消だけでなく、企業にとって大きな意義がある。自然に囲まれた環境で働くことは社員のマインドヘルス管理にとてもいい影響を及ぼす。

森林体験が、ストレスを解消する癒し効果があることは、科学的にも実証されている。また、自然体験をすることで作業効率や創造性などの知的労働生産性が向上するという研究結果(※5)もある。さらに短期間とはいえ都会から人が来て生活することで、消費や雇用により地域が活性化するというCSR的なメリットがあることも見逃せない。このような施設がたくさんできることで地方創生につながる可能性も十分あるだろう。

■将来のCSV拠点としても注目

信濃町ノマドワークセンター 改装イメージ図

管理運営を行うNature Serviceは、とくにロボットやIoT関連の企業の誘致に力を入れている。ノマドワークセンターがある長野県信濃町の人口は約8500人、1947年から人口が減少し続けている過疎地域。農業、林業などの担い手不足、独居老人へのサポート、豪雪地帯ならではの除雪作業など様々な問題を抱えている。

Nature Serviceは、ロボットやIoTの活用によってこれらの問題解決に貢献できると考えている。施設内にはメイクラボ(工作室)やガレージあるし、なにより信濃町というフィールドで様々な実証実験ができる可能性がある。企業にとっては、CSRだけでなく、CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)拠点ともなりうる施設だ。

こうした取り組みが、木材生産以外の森林の価値をクローズアップし、中山間地域の人や経済に活気を与えるものになればとてもいいと思う。2020年の夏は暑くて混み合った東京を離れ、北信州の自然に囲まれた環境で新しいプロジェクトを進めるのもいいかもしれない。

信濃町ノマドワークセンター 

※1 テレワーク・デイズ
https://teleworkdays.jp/

※2 2018年「テレワーク・デイズ」の実施について 総務省の資料より
http://www.soumu.go.jp/main_content/000545441.pdf

※3 「やすらぎの森オートキャンプ場」は、長野県上水内郡信濃町が有する公共キャンプ場を、特定非営利活動法人 Nature Service が業務委託を受けて運営している。
http://yasuragi.natureservice.jp/

※4 ワーケーションとは、仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせた造語。旅行先などで仕事をする新しい働き方として、アメリカを中心に広まりつつある。最近では日本航空(JAL)なども新しいテレワークの仕組みとして実践している。

※5 知的労働生産性の向上に関する参考記事
https://www.lifehacker.jp/2012/02/120131-nature.html

https://www.lifehacker.jp/2013/01/130103hike_to_boost.html

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0051474

フリーランスのコピーライター。「緑の雇用担い手対策事業」の広報宣伝活動に携わり、広報誌Midori Pressを編集。全国の林業地を巡り、森で働く人を取材するうちに森林や林業に関心を抱き、2009年よりNPO法人 森のライフスタイル研究所の活動に2018年3月まで参画。森づくりツアーやツリークライミング体験会等の企画運営を担当。森林、林業と都会に住む若者の窓口づくりを行ってきた。TCJベーシッククライマー。

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