企業と社会の戦略的コミュニケーション

■議論:「消費者とのコミュニケーションの在り方」
パネルディスカッションでは、司会の西尾教授より本セッションの中心的課題の一つ目として、消費者向けコミュニケーションの特徴・難しさ・課題はどういったものがあるか、との問いが示されました。

笹谷氏からは消費者とのコミュニケーションの難しさとして、国・地域の多様性、企業の事業活動を通じての顔の見せ方、世代間の価値観の違いの三点が挙げられました。

高堰氏は、四半期単位で商品が入れ替わる飲料と再生可能エネルギーを挙げ、「商社として社会の変化をどう見ていくかというときに、消費者ばかりを見るのではなく、社会そのものを見る必要がある。また、我々は日本の企業として、欧米との関係をどのように見てどう折り合いをつけながら消費者と会話をしていくのか。消費者だけに答えはない、というのがコミュニケーションの難しさである」と述べました。

間宮氏は「今の時代は商品があって広告をやればモノが売れるというものではなく、賢い消費者は広告の先の企業を見ている。その企業の存在意義に一貫性がありブレがないという点が、消費者向けコミュニケーションの大事なポイントではないか」と述べました。

西尾教授からは「社会的な価値のあるモノやサービスを提供していくことが、企業と組織の事業活動を通してのサステナビリティだというのが共通認識であった。そのときに、社会的課題の解決と、利益の追求をどう両立させるべきか。商品を通した消費者とのコミュニケーションと、企業姿勢を通じて自社のサステナビリティを伝えること、そこを切り分けるのではなく、統一的なコミュニケーションを取らなければいけない点に、消費者とのコミュニケーションの難しさがある」との見解を示しました。

次に「消費者向けに多様かつ社会的な価値観を伝えていくには、SDGsはツールとしてどう使えるのか、または何が課題なのか」という問いが示されました。

笹谷氏は「SDGsは発信性が強いがために中身が伴わないとSDGsウォッシュという批判もあり得る。まずは企業内にしっかりとした事業があり、それを説明する言語としてSDGsを使うというのが本来の在り方。中身が伴えばSDGsは世界標準での発信ツールとなる。また、SDGsに当てはめながら動くことで自分の会社・立場が見えるという「見える化」が進むツールでもある。自社の事業内容全体にどうサステナビリティが埋め込まれているのか、社外に対して全体像を見せつつ、社内のインナーブランディングにも役立てる。日本企業は自社に徹底的にSDGsをはめ込む時期にあり、今やどう使いこなすかの競争次元に入っている」と述べました。

高堰氏は「CSR/SDGs/CSV等様々な用語の中で、実は伝えている事や根底に流れているものは変わっていないが、SDGsではディスカッションすることや、我々自身がどういうマインドを持っているかが大事だと言われるようになった。言葉を使ってコミュニケーションをはかる大切さを考えると、SDGsを道具として使いこなせるかどうかが、使いやすさの答えになってくるのではないか」と述べました。

間宮氏は「社内外からの相談は二つに大別される。一つはSDGsという整理された社会的課題と自分たちの事業リソースが重なるところで新しいビジネスチャンスを見出したいという意向。もう一つは社会的課題を背景に、自分たちの企業理念を見直したいという意向である。SDGsは企業がどう課題を解決できるのかと立ち返る機会を与えている。その一方で、企業内での部署間の認識に大きな差異がある印象を受ける。社内の連携が進むことで、より強いソーシャルインパクトが出せるのではないか」との考えを示しました。

西尾教授からは「SDGsはグローバルな社会問題も非常に分かりやすく整理している。ゆえに自社にはどういうことができて、何が課題なのかを考えるために有効だと言える。グローバルに標準化されようとしているため、コミュニケーションツールとしても使いやすいが、中身がない状態で使うと非常にネガティブな反応を受けることになる。コーポレート部門ではSDGsによって事業を整理したり、ステイクホルダーとのコミュニケーションを図ったりしているが、モノを作る以外の事業部門ではまだあまり浸透していない。その点が残念であり大きな課題である」とコメントしました。

最後に「消費者向けのコミュニケーションの成果をどう捉えたらよいか、またどう展開していけばよいか」との問いが示されました。

間宮氏は「CSR村という言葉があるが、閉じた世界にいると非常にもったいない。SDGsアワードのように目に見えるものがあると、それに出そうとする、見せようとする、そこに議論が生まれコミュニケーションが生まれる。そう考えると基準を設けることの意義が感じられ、結果として広がりが生まれている実感を得ることが重要」との見解を示しました。

高堰氏からは「手に持っているものがどこからきているのか考えるようになると、商品の後ろにあるストーリーや仕組みが広く浸透し、『大衆化』することが一つの成果と言える。また、2030年までの17のゴールを誰もが当たり前に認識することも大きな成果である。今までCSR担当内だけで議論されていたことが、部署を超えて対話が増え、仲間が増える。このような大衆化された形がSDGsである」と述べました。

笹谷氏は「発展のポイントは『発信型三方よし』。発信には方法論と伝える技術が必要。伝えるためのイノベーションを創発する場において、プラットフォームを作っていくことが必要である。もう一つのポイントは学び。人材育成の重要性が語られる時代となり、学び直しのリカレント教育の中でサステナビリティが学習されている。SDGsアワードの審査基準は、1. 普遍性、2. 包摂性、3. 参画型、4. 統合性、5. 発信性であり、これらは企業のインナーブランディングに繋がり、消費者の共感を得ることに繋がっていく。消費者もSDGsを生活様式や行動様式にビルトインしてサステナブルな生活を実現していくことが求められる」と述べました。

最後に西尾教授は「『大衆化』にも様々あるが、社会的価値のあるものを市場・社会・消費者・ステイクホルダーに浸透させる。企業活動の中でモノやサービスとして具現化させていく。広報・広告という記号で伝えるだけではなく、自分事にできるような体験学習の場を提供する。それらが『大衆化』という形で社会全体に浸透すれば、結果的に消費者のライフスタイルが望ましい方向へ変革し定着することになるだろう」とまとめ、本セッションは終了しました。

◆笹森友香
企業と社会フォーラム(JFBS)事務局
文部科学省所管独立行政法人にて各国政府の留学生支援に従事し、その後西洋美術・日本美術の普及・広報事業を経て、現職。教育企画・運営を行うNPOや、マイノリティの視点から芸術文化活動を推進するNPOにおいても活動中。

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齊藤 紀子(企業と社会フォーラム事務局)

原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学人間社会学部准教授。

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